2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K12401
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Research Institution | Aichi Prefectural University |
Principal Investigator |
久保薗 愛 愛知県立大学, 日本文化学部, 准教授 (80706771)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 九州方言 / ロシア資料 / 方言史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題は,九州方言を中心に文献とフィールドワークによる方言史の再構築,さらに中央語との対照による新しい視点の提供を目的とする。本年度は①現代方言の形容詞の形態的・構文的特徴,②方言文献の資料性検討,③近世期の対格標示について研究を行った。 ①:鹿児島県甑島方言の,形容詞の第二項が格助詞ニでマークされる現象(ニ格形容詞と呼ぶ。例:私は先生ニ怖い)を記述するとともに,主語の格標示にガノ交替を持つ地域にニ格形容詞が見られるという仮説を示した。意義と重要性:特異に見える形容詞の格標示について,本方言の特殊性を示しつつ,他方言との共通性・普遍性を示せたものと思われる。 ②:『欽定全世界比較言語辞典』は近世期にロシアに漂流した複数の日本人のことば(鹿児島・東北)を反映する一方,キリシタン資料も引用されているといわれる。本研究ではその具体的な典拠について検討を行った。また『欽定~』の改訂版『アルファベット順全言語および方言比較辞典』には伊勢漂流民の大黒屋光太夫の言語が反映されるが,資料内部の表記や他資料の様相と比較することで誰がどのようにして光太夫のことばを記録したのかを検討した。意義と重要性:どのような文献も資料の検討なくして用いることは出来ない。②は研究の基盤となる資料研究と位置づけられる。またキリシタン資料の後世への影響についても一つの見解を出せたものと考える。 ③:現代九州方言では対格ヲの無標示が許容されにくいが,過去の鹿児島方言においては無生物が目的語の場合に無標示になりうる可能性を指摘した。意義と重要性:日本語学でも近年格標示の様々なタイプについての研究が盛んである。本研究はその流れの一つに位置づけられる。有生物目的語に有標のマーカーが必須であり,無生物はそうでないということは,諸方言の特徴と一致するところがありそうした他の方言研究へのデータ提供の意義も存する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度には本研究課題に関する口頭発表3件を行い,また現在いくつかの論文を執筆中であるため,概ね順調に進みつつあるといえる。 ただ,今般の感染症の問題によって,2019年度3月から現在まで全く文献および面接調査が不可能な状況にある。特に,高齢者を対象とする面接調査に関しては,各地の研究者と連携しつつ情報共有を行っているが,2020年度に全く面接調査ができないという悲観的なシナリオも残念ながら想定しておかなければならない。今後重心をフィールドワークから文献にシフトせざるをえない状況におかれる可能性が高い。
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Strategy for Future Research Activity |
今後,本研究課題を進めるにあたって,最大の障壁は対面調査が行えないことにある。特に,老年層を対象とした面接調査は,感染症の危険性という観点からおそらく実施できず,収束後に実施できたとしても,2020年度中に十分な成果を発表できるほどの調査は難しいものと思われる。 そのため,現時点で研究の方針を次のように若干軌道修正するつもりである。今後は,面接調査を控え,近世期の文献と近代の方言談話を中心とした方言史研究を中心に行う。他方で,オンライン(紙媒体含む)調査を引き受けてくれる話者をできるだけあたり,データの不足を補いたい。
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Causes of Carryover |
2019年度3月に予定していた面接調査が今般の感染症によってすべてキャンセルになったため。
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Research Products
(4 results)