2019 Fiscal Year Research-status Report
近代日本の漢学塾と知識人の思想形成に関する史料学的研究
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18K12496
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
田中 友香理 筑波大学, 人文社会系, 助教 (90756280)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 漢学 / 家族 / 鈴木虎雄 / 家 / 私文書 / 長善館 / 知識人 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、明治期の漢学塾の関係史料を悉皆的に調査することで、近代日本の知識人の思想形成における漢学の役割とその知 的ネットワークの広がりを明らかにすることを目的とするものである。主な研究対象は、天保4年から明治45年にかけて現在の新潟県燕市に存在した漢学塾である長善館とその館主・塾生の思想と行動であり、これらを明らかにするために使用する主な史料は新潟県公文書館所蔵「長善館学塾資料」、燕市長善館史料館所蔵 「長善館史料館所蔵資料」、筑波大学附属図書館所蔵「鈴木虎雄関係史料」等である。これらの史料に史料学的分析を加えることで、幕末から明治期にかけての漢学塾がいかにして近代化を遂げたか、また地域の知識人が漢学によっていかなる思想形成を果たし、漢学塾を結節点としていかなる知的ネットワークを構成したかを考察する。 2019年度は前年度に発表した論文「長善館と鈴木家」を発展させ、とくに塾生であり2代目館主の三男である鈴木虎雄の立身出世と家業としての漢学の関係について、主に「長善館史料館所蔵資料」のうち書簡資料の読解をとおして明らかにし、その成果をもとに講演「鈴木虎雄と長善館」(於:近代新潟人物史研究会・新潟日報社、2019年11月30日)を行った。 また、主に2代目館主が死去した明治29年から3代目館主が塾を閉鎖するまでの日記(「長善館学塾資料」の一部)の読解に取り組み、明治30年代後半以降とくに地域において漢学塾の需要が衰えていたことを把握するとともに、その塾閉鎖にいたるまでの館主の思索過程と行動を明らかにした。 さらに2020年度の研究課題である長善館をめぐる知的ネットワークの広がりの分析のために、長善館資料館における悉皆的な資料調査と新潟県全域に広がる塾生に関する実地調査を行った。その結果、歴代館主と塾生家族の間の交流関係を跡付ける書簡資料を収集することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は、本年度の課題だけでなく、来年度調査を予定していた長善館史料館での悉皆的な資料調査を行うことができたため。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は、長善館をめぐる人的広がりについて、長善館史料館や新潟県立文書館の書簡や日記資料の分析を引き続き行いながらも、新たに、館主一族や塾生の子孫を訪ね史料調査を行なう。新潟県燕市だけでなく周辺の市町村へも調査網を広げる。調査によって得た史料を解読し、その成果をデータ化し、いわば明治期漢学塾のビッグデータを完成させる。さらに、先行研究を参考にしながら塾生の社会階層や長善館での位置づけ、館主一族との関係性等を分析することで、漢学を中心とする地域における知的ネットワークの在り方につ いて論文を執筆する。2021年度には本格的なデータ分析を行なうだけでなく、それをもとに長善館と他の漢学塾との比較を行い、明治期の漢学塾の役割について考察し、それについての論文を執筆する。さらに、本研究の最終年度として4年間で執筆した論文を集めた論文集を作成し、広く研究成果を発信することを目標に据える。
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Causes of Carryover |
2019年度は、短期雇用の被雇用者に対する謝金が減少した。理由は、本年度は短期雇用者に日記翻刻をもとにしたデータ作成を依頼するのではなく、実地の資料調査に多くの時間と労力を割いたためである。したがって、来年度は本来本年度行うはずであった短期雇用を用いたデータ作成を繰り越して実施する予定である。
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Research Products
(1 results)