2019 Fiscal Year Research-status Report
個人史から見る環太平洋地域を越境する社会運動のネットワーク
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18K12507
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
上原 こずえ 東京外国語大学, 世界言語社会教育センター, 講師 (60650330)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | プレカリアート / コモンズ / 琉球弧 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、沖縄における経済開発や軍事への賛成および反対をめぐる集合行為に参与してきた個々人に焦点をあて、個人という固有な「経験」を有する主体の、それまでの経験に対する認識や理解を包含する「思想」が社会運動という集合行為に与える意味を考察する研究論文を発表した。今年度の科研費は主にこれらの研究を遂行するためのフィールドワークや資料調査の費用にあてられた。
1.「金武湾とプレカリアート」『アジアアフリカ研究』60(1)では、施政権返還時の沖縄における不安定就労の拡大と失業率急増のなかで、生計を立てることと基地や大企業に依存せずに自立して生きることのはざまで、葛藤しつつも開発に抗おうとした人々の活動経緯や、発言記録などを追い、聞き取り調査も行った。彼ら、彼女らの言葉や行動から、沖縄の社会経済状況の不安定化とそれが促進させた雇用不安、生活手段としての土地や海とのつながりの断絶が、開発に抗うことをより困難なものにしたのと同時に、新たな闘争の可能性を示唆したことを提起した。
2.「繰り返されるコモンズの収奪にどう抗うかーー新崎盛暉と1970~80年代」『沖縄文化研究』(47)では、1974年に「CTS阻止闘争を拡げる会」の活動を開始し、1976年には機関誌『琉球弧の住民運動』を発刊、軍事と開発に抗う人々が点在する琉球弧を渡り歩いた1970-80年代の新崎盛暉の活動と発言を考察の対象とした。経済開発や米軍基地駐留に抗う集合行為について、新崎が、集合行為に参与する個々人の戦前・戦時・戦後の移動の足跡および各地で遭遇した出来事とそれらの経験をたどり、沖縄における戦後社会運動史を形成していると論じていた経緯とその根底にある問題意識について考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度は主に、上記の論文執筆を行うことに加え、聞き取り調査およびフィールドワークを通じて、移動経験を有する個々人の1970-80年代の沖縄における軍隊や開発に抗う集合行為の記録としての資料を収集し、また第一次資料の作成(聞き取り調査の書き起こし)を行った。 今年度、特に進展が見られたのが、1960年代~80年代に本土に移動、本土での労働経験を経て、沖縄にUターンした後に反開発の住民運動に携わった戦後世代の、抵抗運動の新しい主体としての可能性であった。本土資本の流入に伴う不安定就労状況や失業が蔓延する沖縄において、生活と運動のはざまに置かれていた彼ら、彼女らをプレカリアートとして捉えることで、基地のない沖縄で生産活動がより身近なものとしてあった戦争体験世代とは異なる質の困難に彼ら/彼女らが直面していたこと、さらにそうした困難のなかで抵抗の主体として自らを再構成しようと模索する過程があったことが浮き彫りになった。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度末以降のコロナ肺炎感染病拡大により、2020年度予定していたハワイ、マリアナ諸島、および米国への資料収集および聞き取り調査の計画は実行不可能になると予想されるが、マリアナ諸島における調査の代替としては、ハワイ大学のデジタルアーカイブを利用し一部補足することが可能である。 今年度は、2018年度、2019年度末に行った聞き取り調査と、収集した資料の整理・分析と成果報告としての刊行に主に取り組む予定である。と同時に、2019年度に進展した、本土での労働経験を経て、沖縄にUターンした後に反開発の住民運動に携わった戦後世代の、抵抗運動の新しい主体としての可能性についての考察を学会での研究報告などを通じて継続していく予定である。
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Causes of Carryover |
コロナ肺炎感染症拡大のため、年度末に予定していた資料収集のための出張がキャンセルとなり、その分繰越させていただきました。
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Research Products
(7 results)