2020 Fiscal Year Research-status Report
冷戦初期アメリカにおけるヨーロッパ統合研究の誕生と発展
Project/Area Number |
18K12537
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
高津 智子 九州大学, 人文科学研究院, 専門研究員 (00807191)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 西洋史 / アメリカ / ヨーロッパ統合 |
Outline of Annual Research Achievements |
ヨーロッパ統合は長年、ヨーロッパの内的事象として理解されてきた。しかし近年の研究動向では、ヨーロッパの外的要因――冷戦や脱植民地化といった20世紀半ばの国際環境の変化――によって大きく規定されたものとして、統合プロセスを理解する傾向にある。そのような中で大きな焦点となるのが、アメリカの関与とその影響の程度である。米欧関係史の大家 G・ルンデスタッドは、アメリカの西欧諸国への関与が、統合プロセスの具現化・制度化の背後にあった最も重要な要因であったと論じた。 本研究は、冷戦初期のアメリカにて「民間組織」として設立された統一ヨーロッパ・アメリカ委員会(ACUE)と西欧最大の統合推進組織のヨーロッパ運動の関係性に着目することで、統合プロセスにおける非公式・非政府アクターの役割を分析するものである。 令和2年度は両組織の関係性やその協力活動の実態を明らかにする手がかりとして、1950年代半ばからヨーロッパ運動が主催した「ヨーロッパ青少年キャンペーン」の活動実態を考察してきた。同キャンペーンは、アメリカ政府の対独・対ソ戦略に深く関与したと同時にACUEの活動的なメンバーでもあったL・D・クレイらアメリカ側の提案によってヨーロッパ運動と協同で展開された反共プロパガンダだった。 当時、アメリカの軍事・外交関係者は西欧に共産主義の影響力の増大に危機感を抱いていたが、政府が表立って反共プロパガンダを展開するとソ連との緊張関係が悪化する可能性があることから、CIA の関与を深く受けていながらも「民間組織」の表看板を掲げていたACUEとヨーロッパ運動に、西欧各国での反共戦略の一環としてヨーロッパ青少年キャンペーンを実施させた経緯を明らかにした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究を遂行するためには海外の文書館での資料収集が不可欠であり、新型コロナウイルスの世界的感染拡大による影響で海外渡航不可となったため、訪問予定であったイタリアのEU 歴史文書館、ハーバード大学文書館、フォード財団文書館などでの資料収集はいずれも行えなかった。そのため、二次文献の収集とオンライン・アーカイブズで閲覧可能なACUEのメンバーのインタビューや回想録を分析することで、ヨーロッパ青少年キャンペーンが開催に至るまでの背景を分析している段階である。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、令和2年度に実現できなかった海外の文書館での集中的な史料収集を予定している。それを通じて、(1)ヨーロッパ青少年キャンペーンが実現されるに至るまで、アメリカの軍事・インテリジェンス・外交関係者はこのようなプロパガンダについてどのような考えを抱き、その実現を決定したのか、(2)ヨーロッパ運動との協同のもとで展開されたヨーロッパ青少年キャンペーンの内実とその影響はいかなるものだったのか、(3)これまで収集・分析した二次文献や一次史料から同プロパガンダには、ACUEのブレーンとして活動していたハーバード大学の研究者グループが関与していたことが判明しているが、その関与の実態とはいかなるものだったのか、という3点を主な研究課題として掲げて、さらなる分析を行いたい。
|
Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの影響により海外渡航(アメリカ、イタリアなどの文書館での史料収集)が不可能な状態となったため、予定していた旅費を執行することができなかった。そのため令和3年度に海外渡航を行い、集中的に史料の渉猟にあたる予定である。
|