2019 Fiscal Year Annual Research Report
Empirical Research on the Surveillance by the Police in the Meiji Era: With Keys of Supplementary Provisions of the Old Penal Code and the Restriction on Freedom of Movement
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18K12664
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Research Institution | Seikei University |
Principal Investigator |
三田 奈穂 成蹊大学, 法学部, 研究員 (10735921)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 警察監視 / 移動の自由 / 旅券 / 旧刑法附則 |
Outline of Annual Research Achievements |
明治期の警察による具体的な監視内容が断片的に明らかとなった。警察は個別訪問により人民を網羅的に掌握してその動静を日常的に見張ることとしたが、その種別は甲乙丙の三種類に区分されている。明治16年2月「戸口調査仮規則並心得」は、丙について、被監視人、刑余者一般や不審者、無産無職者等と並列に列挙されており、被監視人に対する警戒は甲乙よりも強化されてはいるものの、他の者よりも厳重であったとは記されていなかった。また、無籍であっても就籍先は強制されなかったが、住所は出獄前に照会して確実に定めるという運用であった。 特筆すべきは被監視人の旅行の自由の制限であり、事前の申請・許可及び旅券の交付・携帯が義務付けられた。旅券については別に、川路利良による旅行者一般に対する内国旅行の旅券携帯義務化の企図が知られているが、被監視人に対する旅券の携行の義務化は、治安上の要請に応える証明書として規定された。 旅券携行に係る詳細は旧刑法附則に定められ、編纂経緯から、ボアソナード原案起草前には旧刑法の本則(総則)に規定を置こうとしていたことがわかる(日本帝国刑法初案)。フランスでの制度説明として、監視が各地の警察官吏よりひそかにおこなわれ(仏国刑法会議筆記)、また、旅券携行について、途中の疾病や事故の対処に便益があるという理由が述べられている(刑法編集日誌)。これは、治安を維持し犯罪者の探索を容易にするという川路の意見書とは異なり、官吏の手間を短縮し、被監視人の人身保護を考慮したものであるといえる。なお、初案と旧刑法附則との関係については、さらなる調査を要する。 警察監視は犯罪者に対する国家による移動制限の管理である。その効果については制度が廃止されていることから否定的な見解が多いものの、政治犯を政治の中心から退去させ、首都への立入を禁止させる際に効果を発揮したと考えられる(保安条例)。
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