2019 Fiscal Year Research-status Report
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18K12888
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Research Institution | Otaru University of Commerce |
Principal Investigator |
市原 啓善 小樽商科大学, 商学部, 准教授 (60732443)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 財務会計 / 利益調整 / 利益の質 / 配当政策 / 実証分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、配当政策と報告利益管理(earnings management)の関係を、エージェンシー問題の緩和という観点から分析するものである。日米における企業の配当行動に関するこれまでの先行研究においては、企業経営者が減配の実施に対して強い抵抗感を抱いていることが一貫して指摘されている。Watts and Zimmerman(1986)で体系化された実証会計理論では、減配回避を志向する企業経営者には、配当財源の確保を目的とした利益増加型の会計選択を行う動機を有するとする債務契約仮説が提示されている。さらに、会計情報のもつ契約支援機能の観点からではなく、株式市場に関する動機の観点から、減配回避を目的とした報告利益管理を検証する研究が近年になって行われるようになっている。当該会計行動に関する実証研究については近年提示され始めたばかりであり、米国においてもわが国においても研究の蓄積はいまだ少ない状況にある。 企業の配当政策は、毎期、多額の現金が投じられ、多くの利害関係者の関心を集める重要な財務意思決定であり、企業価値に大きな影響を及ぼす。しかし企業の財務政策・投資決定が、利益の質(earnings quality)に及ぼす影響について、配当政策の観点から検証した研究は世界的にいまだ限られた状況にある。また、わが国では、経営のグローバル化や会計基準の国際的収斂化が起きる中においても、有配企業が特徴的に多く、自社株買いに消極的といった株主還元政策や、会社法配当規制をはじめとした特徴的な会計制度が設定されている。わが国固有の企業行動や会計制度が、企業経営者の会計行動に与える影響を明らかにする研究は、ディスクロージャー制度のあり方に何らかの示唆を与えるものとなることが期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
報告利益の質(earnings quality)の向上は、フリー・キャッシュフロー問題の顕在化と、過少配当の抑制効果をもたらすことから、利益の質が高い企業ほど高配当となることが考えられる。そこで本研究ではまず、利益の質が企業の配当政策に及ぼす影響について検証している。利益の質と配当との関係が、フリー・キャッシュフローや(監視型の)機関投資家による持株数、資金制約等の違いによって異なるか、そして、利益の質が配当の過小支払いにどのように影響を及ぼすか(抑制効果があるか)について検証を行っている。本検証を通して、報告利益の質の向上には、フリー・キャッシュフロー問題の解消を目的とした配当支払いを促進しうるガバナンスメカニズムを有することを明らかにする。初年度ではまず、先行研究のレビューと、研究目的・理論的枠組みを整理し、仮説命題の構築を行った。次に、わが国企業の大量の企業財務データを用いた実証分析を行い検証結果の整理・解釈を行った。 研究次年度では、配当政策が報告利益管理行動に及ぼす影響を検証した。裁量的な会計的発生高と実体的裁量行動を推定したうえで、配当開始企業が、増配企業と同様に利益増加型の報告利益管理を行うのか(シグナリング仮説)、あるいは、増配企業とは異なり利益減少型の報告利益管理を行うのか(フリー・キャッシュフロー仮説)を検証するものである。企業経営者は財務の柔軟性の低下を嫌うことから、配当開始以降に投資家が抱く増配への期待を遅らせるために、企業経営者は利益減少型の報告利益管理を行うと考えられる。研究では、先行研究のレビューと、研究目的・理論的枠組みを整理し、仮説命題の構築を行った。そしてわが国企業の大量の企業財務データを用いた実証分析を行い、検証結果の整理・解釈を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
研究最終年度では、減配局面における報告利益管理行動について検証を行う。先行研究では、配当は、将来キャッシュフローや資本コストに関する経営者の私的情報を伝達するために使用される、あるいは、経営者と株主との間のエージェンシー・コストを削減するために使用されると考えられている。本研究の目的は、株主還元における減配時に焦点をあて、経営者が株価下落を抑制するために利益増加型の報告利益管理を志向しているのか、あるいは、財務の柔軟性の低下を嫌い、投資家が抱く復配への期待を遅らせるために、利益減少型の報告利益管理を行っているのかについて明らかにすることにある。研究では、先行研究のレビューと、研究目的・理論的枠組みを整理し、仮説命題の構築を行う。そしてわが国企業の大量の企業財務データおよび株価データを用いた実証分析を行い、検証結果の整理・解釈を行う。析出した実証分析結果を反映させて、学術論文の執筆と研究学会での報告を行う計画である。
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