2018 Fiscal Year Research-status Report
縮環型アゾベンゼン錯体を基盤としたπ共役系高分子の創出
Project/Area Number |
18K14275
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
権 正行 京都大学, 工学研究科, 助教 (90776618)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 高分子合成 / 高分子材料 / 共役系高分子 / 光物性 / ヘテロ元素 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度の研究により、N=N結合が共役系に及ぼす影響を明らかにすることができ、また、ヘテロ元素による発光特性の違いを実現することができた。基本骨格としての縮環型アゾベンゼン錯体の特性について、現状においてホウ素錯体がAIE性を示し、スズ錯体がACQ性を示すという実験事実が得られており、これらの現象の起源が基底状態および励起状態の構造の違いにあり、光励起によるN=N結合の伸長が駆動力ではないかと考えていた。ホウ素錯体において、同じホウ素錯体ながらもより平面性が高く、光励起により構造変化の少ないN=N結合を拡張した縮環化合物を合成した。その結果、このN=N結合を拡張した化合物は希薄溶液条件下でも発光性を示し、凝集状態では消光するというACQ性を示すことが分かった。これは同じく平面性が高く、光励起により構造変化の少ないスズ錯体と同様の性質である。実験化学的には、光吸収スペクトル測定が先鋭化していること、発光素ペクトルとのエネルギー差であるストークスシフトが小さいことから、構造変化の少なさは確かめられた。また、計算化学によって励起状態の構造を予測することで、N=N結合の拡張により、平面性の上昇はもちろんN=N結合の伸長も小さくなっていることが明らかとなった。このように、AIE性はN=N結合の伸長を駆動力とした屈曲性により、希薄溶液状態での発光性が消光していることが主な原因であると示唆する結果を得ることができた。以前の研究により、共役系高分子化によって発光性が増幅することを示したが、共役系を拡張しつつも、理論的に予測しやすいN=Nを拡張した縮環化合物を合成することで、分子運動の重要性や共役長の拡張の重要性をより明確かつ段階的に示すことができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初予定は測定条件の違いにより、分子運動の違いを観測しようと計画していたが、N=N結合を拡張した縮環化合物の合成の成功により、共役長の拡張がN=N結合の伸長を抑制すること、また光励起による分子運動を抑制することを示すことができた。これは、当初の計画よりもより詳細なN=N結合を用いた共役系の挙動を示す結果であり、予想以上の結果が得られたことを示している。また、ヘテロ元素を用いた発光性の違いにおいては、スズ錯体およびN=Nを拡張した縮環化合物をモノマーとして共役系化合物を合成したところ、いずれも著しい発光波長の長波長化と発光の高効率化を観測した。ヘテロ元素の違いにより発光波長の変化幅は大きく異なることが分かったが、発光効率の上昇については、モノマーの構造として平面性が高く剛直であることが重要であることが分かった。つまり、共役系高分子化によって屈曲運動は抑えることができ、発光性は大きく上昇するが、共役長の拡張による発光性の上昇という点においては、モノマーの平面性の高さが重要であることが分かった。縮環化合物において、モノマーの湾曲が直接的に共役系の拡張に影響を与えることを示した例は少なく、非常に重要な結果を得ることができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
N=N結合の寄与をさらに明確にするために、重合度の増加に伴う段階的な吸収スペクトルの長波長シフト化を調べる。屈曲性のモノマーと剛直なモノマーを比較することで、基底状態における有効共役長を算出することができ、N=N結合を介した電子の非局在化の程度が見積もられると期待できる。これにより、光異性化とは異なるN=N結合の電子的物性を明らかにすることができる。さらに、縮環型アゾベンゼン錯体とドナー性のビチオフェンとの共重合体に関しては発光波長700 nm以上、絶対蛍光量子収率20%以上の高効率近赤外発光特性を有することが予備検討により明らかになっている。オリゴマーや共重合体、単独重合体の種類を増やし、配位構造の異なるホウ素錯体とスズ錯体それぞれの高分子量体の物性を比較することで、高効率近赤外発光性の原因を探る。続いて、バルク材料における構造と機能発現の関係性を明確にするため、キャリア移動度を測定する。キャリア移動度の評価に申請者は習熟しており、実際に素子を作成することで既存の材料との値を比較することができる。電子受容性の強い材料は電子輸送材料としての利用価値が高いが有機材料では報告例がそれほど多くなく、アゾベンゼンを利用した新奇構造の提案は非常に意義がある。配位元素としては、本申請で取り上げたB、Sn以外にもAlやGa、Inといった13族元素、SiやGeといった14族元素、さらには15族元素を配位させることも可能であり、遷移金属も選択可能であり、元素に応じた光物性を検証する予定である。
|
Research Products
(7 results)