Outline of Annual Research Achievements |
オオシロカゲロウは同調的な一斉羽化をし, 大量発生に至ることもある河川棲の水生昆虫である。これまで, 本種はオスとメスからなる両性個体群とメスのみの雌性個体群が認められる地理的単為生殖種であること, また, 日本各地に分布する雌性個体群は, 西日本の個体群に起源する単為生殖系統によって維持されていることを明らかにしてきた。さらに, 両性個体群であったとしても, 両性生殖系統と単為生殖系統とが同一河川内に生息することもあり, このことは東日本である福島県・阿武隈川や埼玉県・荒川の個体群において明らかとなってきている。両系統が生息する河川内では, 一斉羽化の時間帯にずれが生じており, 単為生殖系統のメス個体は, 両性生殖系統のオスやメス個体よりも比較的早い時間に羽化することも明らかになってきた。 これまで, カゲロウ類の一斉羽化の適応的意義としては, 仮説1. 交尾相手発見の容易さ説と仮説2. 捕食者の飽食説が挙げられていた。オオシロカゲロウの雌性個体群では, 交尾相手のオス個体はいないことから, 仮説1は当てはまらないが, 同調的な羽化は認められる。したがって, オオシロカゲロウの一斉羽化では, 捕食者による被食を頭打ち, つまり飽食させることで, 羽化個体の生存率および繁殖成功率を上げるといった仮説2が主な適応的意義であると考えられる。しかし, それではなぜ, 両性生殖系統と単為生殖系統とが同一河川内に生息する場合に, 一斉羽化の時間帯にずれが生じてしまうのか。本研究ではオオシロカゲロウを研究対象とし, カゲロウ類の一斉羽化はなぜ生じるのか, といった適応的意義について新たな解釈「繁殖干渉相手からの逃避説」を得ることを目的とする。
|
Strategy for Future Research Activity |
主に昨年からの調査を継続、データの補完を行なう。 研究① 両性生殖系統と単為生殖系統が同一河川内に分布する河川を明らかにする。河川流程レベルでの詳細な調査を行なう。具体的には, 流程規模での幼虫を対象とした性比調査・遺伝子解析による生殖系統の判別を行なう。また、河川水からオオシロカゲロウDNAを検出するといった環境DNAを用いての判別を行なう。 研究② 両系統間での羽化時間帯および両系統に対する捕食圧を明らかにする。コウモリ類 (モモジロコウモリやアブラコウモリなど), 魚類 (コイやオイカワなど), 肉食性水生昆虫 (ミズスマシなど), 野鳥 (マガモなど) を対象とした羽化時間帯における捕食者の調査を行なう。 研究③ 両系統間で生じる繁殖干渉を明らかにする。単為生殖系統と両性生殖系統間での羽化時間帯のシフトは, 両系統間において互いに繁殖干渉があるとすれば説明可能である。両系統個体が同所的に生息し, 同じ時間帯に羽化するならば, 両性生殖系統のメス羽化個体にとって, 単為生殖系統メス羽化個体の存在は, オス個体との交尾の妨げとなる。一方, 単為生殖系統メス個体にとっては, オス個体による交尾が繁殖を妨げている可能性がある。つまり, オートミクス型二倍体雌性産生単為生殖で発生する予定の成熟未受精卵が, 精子の存在により, うまく発生できなくなる, あるいは三倍体となり子孫を残すことができなくなる, といった繁殖干渉が生じる可能性がある。具体的には, 単為生殖系統メス羽化個体存在環境下での両性生殖系統メス個体の交尾率調査を行なう。また, オス成虫と単為生殖系統メス成虫間での人工交配・人工授精法の開発と発生観察調査を行なう。 研究④ 単為生殖系統と両性生殖系統の遺伝子構造を明らかにする。次世代シーケンスGRAS-Diによるゲノム解析を行なうことで、より詳細な遺伝子構造を明らかにする。
|