2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K15794
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
谷木 信仁 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 助教 (20627129)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 腸肝臓軸 / 免疫寛容 / マクロファージ / NNMT / 1-MNA |
Outline of Annual Research Achievements |
肝臓は門脈血を介して腸内細菌由来の細菌抗原であるmicrobe-associated molecular patterns(MAMPs)や食物由来抗原の刺激に常に晒されている。外来抗原に対して、自然免疫による排除が行われる一方で、過剰な免疫応答を引き起こさないための免疫寛容機構が存在するが、その機序は未だ不明な点が多い。本研究では、まだ解明されていない肝臓特有の免疫応答・免疫寛容の誘導機序を腸肝臓軸の観点から明らかにし、腸肝臓軸をターゲットとした診断方法や治療薬への臨床応用に展開するための基盤研究を行う。 申請者は予備検討において、肝臓における腸管由来抗原刺激が過度に増加するような腸炎モデルマウスではその後の肝障害の軽減が認められることを見出した。さらに、このような腸炎肝炎タンデムモデルマウスでは肝臓内に抑制性サイトカインであるIL-10を産生するマクロファージの増加が認められること、血漿中から免疫抑制性の分子として知られる1-Methylnicotinamide (MNA)が検出されること 、1-MNAの産生を促すNicotinamide N-methyltransferase(NNMT)の発現が著明に上昇することを見出した。 当該年度において、明らかとなった研究成果は以下の通りである。腸炎肝炎タンデムモデルマウスにおいて、抗IL-10抗体を投与により肝障害の減弱が消失した。また、マウスに腸炎肝炎タンデムモデルマウス肝臓由来の抑制性マクロファージの移入することによりその後の肝障害が抑制された。さらに、1-MNAの静脈内投与により、その後の肝障害の軽減と肝臓内IL-10産生マクロファージの浸潤を認めた。以上から、腸肝臓軸の観点からみた肝臓内の免疫寛容の新しい機序として、1-MNAを介したIL-10産生マクロファージの誘導が重要な役割を果たす可能性を見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度において、抗IL-10抗体、腸炎肝炎タンデムモデルマウス肝臓由来の抑制性マクロファージの移入の実験系を用いて、本研究における免疫寛容機構に抑制性マクロファージおよびIL-10が直接的に関与することが確認された。また、1-MNAの投与によりこれらの免疫寛容機構を再現することが可能であることを見出した。加えて、現在、アデノウイルスベクターを用いたNNMTノックダウンマウスを作成しており、次年度以降の研究準備も進んでいる。 また、原発性硬化性胆管(PSC;primary sclerosing cholangitis)患者ではしばしば潰瘍性大腸炎やCrohn病などの炎症性腸疾患(IBD, inflammatory bowel disease)を合併することが知られているが、PSC患者の予後を後ろ向きに解析した研究では、IBD合併例ではIBD非合併例(PSC単独)に比して、胆管障害の程度が軽いことや生存期間が長いことが報告されている。これらの疫学的研究からは、腸管透過性の亢進が肝臓における免疫寛容を誘導する可能性が示唆されるが、その機序は明らかではない。本研究のマウスモデルにおいて見出された免疫寛容機構のヒトでの再現性を検証する目的で、PSC患者ヒト検体の末梢血血漿、肝組織を解析し、IBD合併例とIBD非合併例のを比較し検討を行う予定である。当該年度において、本学倫理委員会の承認を受け、患者のヒト検体(末梢血血漿、肝組織)の収集を開始した。 以上のような状況を踏まえると、本事業は概ね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は以下の検討を実施する。項目1)アデノウイルスベクターを使用した肝臓内NNMTのノックダウンによる本モデルにおける免疫寛容消失の有無の評価する。NNMTは肝臓および脂肪細胞で高発現することが知られている。予備検討において、DSSConA群マウスでは血漿中の1-MNAの上昇と並行して、肝臓内NNMTの発現が上昇することが確認された。本モデルにおける免疫寛容と1-MNA、NNMTの関与を証明する目的で、アデノウイルスベクターによる遺伝子導入を行い、肝臓内NNMTのノックダウンによる1-MNAの除去に伴う本モデルにおける免疫寛容の消失の有無(血清ALT、肝臓病理組織学的評価)およびフローサイトメトリーを用いた肝臓内IL-10産生マクロファージの消失の有無を解析する。項目2)炎症性腸疾患(IBD)合併原発性硬化性胆管炎(PSC)患者における末梢血血漿中1-MNA濃度、肝臓内NNMT発現の解析を行う。PSC患者における末梢血血漿中のCE-TOFMSを用いたメタボローム解析を行い、IBD合併例とIBD非合併例を比較、1-MNAを含めた低分子の定量的評価を行い、疾患特異的な低分子の同定を目指す。また、同様の患者集団において、肝組織におけるNNMT mRNAの発現を解析する。
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Research Products
(5 results)