2018 Fiscal Year Research-status Report
左室駆出率が保たれた心不全の新しいパラダイム:血管平滑筋細胞を中心とした病態解明
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18K15907
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Research Institution | Kurume University |
Principal Investigator |
柴田 龍宏 久留米大学, 医学部, 助教 (20776942)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | HFpEF / 拡張障害 / SOCS3 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、左室収縮能の保たれた心不全(HFpEF)の原因と言われている慢性炎症による血管平滑筋細胞STAT3経路活性化の増強が、HFpEF発症における心病変と血管病変との共通した重要経路であるとの仮説を立て検証している。 まず、加齢がHFpEF病態に及ぼす影響に関し検証した。雄の野生型マウス(WT)と平滑筋特異的SOCS3ノックアウトマウス(KO)に対し、加齢による経時的変化(半年モデル:26~30週齢、1年モデル:52~56週齢)を評価した。形態学的評価としては、体重に関しては半年モデルではWT、KOともに有意差は認めていなかったが、1年モデルになるとWTと比較しKOでは有意に体重が減少した。この体重差は、WTは加齢に伴い体重が増加していくことに対し、KOでは体重は横ばいとなっていたことによるものであった。しかし、心臓、肝臓、腎臓、脾臓などの各種臓器重量の体重比はKOで有意に大きく、心不全による臓器うっ血を示唆する結果となった。なお、心不全による胸水貯留の有無を確認するため、CTによる評価を行ったが、WT、KOともに明らかな胸水貯留は指摘できなかった。これらのことから、1年モデルにおける体重差はWTの心不全による体液貯留が原因ではなく、KOの心不全徴候としての体重増加不良に起因するものと考えられた。肉眼的には、心臓組織はKOで心外膜は有意に増加し、心筋に癒着し剥離困難な様相を示していた。組織学的には、心筋はシリウスレッド染色ではKOで心外膜側に有意に線維化を来たし、Western BlotではWTと比較しKOではP-STAT3の活性化が示唆され、形態変化においてSOCS3が関与している可能性が示された。心エコー検査では、半年、1年モデルのWT、KOともに左室駆出率(EF)は保たれていたが、WTに比較しKOではE/e’は高値となり、特に半年よりも1年モデルで顕著であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
現時点では当初計画していた進行状況よりも遅延している。心エコーの際の麻酔投与量の調整に難渋し、適切な条件下での検査施行法に再検討を要した。また、後述の通り、アンギオテンシンⅡ負荷において予備検討を行ったが、野生型マウスが経過中に死亡したため、投与量や投与方法の再検討が必要となった。さらに、申請者が所属している研究所および実験動物管理所が老朽化もあり今期間中に移転する運びとなった。そのため実験器具の使用や実験動物の飼育や繁殖に制限もあり、予定通りに進行することが不可能であった。また、移転後に実験動物の繁殖を再開したが、繁殖に難渋し予定よりも加齢モデルを再現することに時間を要したことに加え、実験適齢週のマウスの数が限定的となったことも原因として挙げられる。
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Strategy for Future Research Activity |
前述の通り、現時点でマウス加齢モデルでの実験を中心に行っており、HFpEFのリスク因子としての加齢を再現している。加齢モデルでは、WTに比べKOでは左室駆出率(EF)に有意差はなく保たれていたが、臓器重量/体重比はKOが有意に増加し、臓器うっ血を示唆する所見であった。さらに、組織染色ではシリウスレッド染色でWTに比較しKOでは有意に心外膜側の心筋に線維化を認め、Western blotではKOでSTAT3活性化傾向を認めており、KOマウスのフェノタイプ発現にSOCS3が関与していることが示唆された。 今後の方針としては、若年マウスにおけるアンギオテンシンⅡ負荷および高塩分高脂肪食負荷での拡張障害モデルを作成し、同モデルでも加齢モデルと同様の知見となるかどうかを評価する。特にアンギオテンシンⅡ負荷に関しては、予備検討としてアンギオテンシンⅡを皮下持続ポンプを用いて1.44μg/g/日の投与量で14日間投与し評価を行った。しかし本検討においては経過中にWTマウスが死亡し、比較検討は困難となった。原因としてアンギオテンシンが高濃度であった可能性が考えられた。そのため、0.2μg/g/日の低容量で28日間投与する方法を行う予定としている。また、拡張障害や動脈スティフネス亢進の報告があるHigh fat +high sucrose(HFHD)食の56日間投与での評価も計画している。 さらに、加齢モデルより採取している組織の免疫染色、タンパク解析も進め、線維化部分のPSTAT3亢進の存在を確認していく方針である。
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Causes of Carryover |
当初の実験計画よりも進行が遅れており、また計画していた学会発表も見送ったため。次年度使用額は試薬や実験器具、学会発表の演題投稿料などにあてる予定としている。
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