2021 Fiscal Year Research-status Report
脊髄後角シナプス伝達における生体内D-セリンの 機能解明
Project/Area Number |
18K16462
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Research Institution | Dokkyo Medical University |
Principal Investigator |
加藤 永子 獨協医科大学, 医学部, 講師 (10721897)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | Serine racemase / Spinal dorsal horn / Spinal nerve ligation / Whole-cell recording / NMDA receptor |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでの研究によって、セリンラセマーゼ(SR)をノックアウト(KO)したマウスは、脊髄後角のNMDA受容体を介した興奮性シナプス伝達が増強していること、SR-KOマウスに末梢神経結紮を行うと、機械的アロディニアが有意に増強するが、末梢神経結紮方法(Seltzer法やChung法など)の違いによって、疼痛感受性に対する影響が異なることを明らかにしてきていた。 そこで本年度は、行動学的に観察されたSR-KOマウスの表現型をシナプス伝達レベルで裏付けるための研究を行った。コントロール、SR-KOマウス間で機械的アロディニアに有意差の現れたChung法による末梢神経結紮を行い、結紮から7-14日後のマウス脊髄腰膨大部より350 μmの脊髄切片標本を作成して、脊髄後角表層神経細胞からホールセル(全細胞)パッチクランプ法により興奮性シナプス後電流(EPSCs)を記録した。EPSCsは薬剤によってNMDA成分と非NMDA成分とに分離して記録し、シナプス電流のピーク電流値からNMDA/non-NMNMD比を算出した。また、NMDA-EPSCsの波形を指数関数に当てはめ、減衰相における時定数τ、およびNMDA-EPSCsの総電流量を算出した。 コントロールマウスとSR-KOマウスにおいてこれらを比較した結果、SR-KOマウスでは、NMDA-EPSCsの総電流量が増大している傾向性を見出した。また、Chung法による結紮を行ったSR-KOマウスと、末梢神経未結紮のSR-KOマウスとを比較すると、神経結紮を施したSR-KOマウスの方が未結紮SR-KOマウスよりも総電流量が大きかった。このことから、SR-KOマウスは、SR遺伝子欠損の結果亢進していた脊髄後角シナプス伝達が、末梢神経結紮によってさらに亢進し、機械的アロディニアの増強を誘発させている可能性が高いと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度はSR-KOマウスの神経結紮による機械的アロディニアの増強を裏付けるため、末梢神経結紮を施したSR-KOマウスにおける、脊髄後角の興奮性シナプス伝達変化について脊髄切片標本を用いた電気生理学的解析を進めた。しかしながら、新型コロナウィルス感染症拡大の影響により、通常予定しているその他業務に費やす時間が大幅に増加したため研究計画遂行に遅れが生じた。
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Strategy for Future Research Activity |
末梢神経結紮を施したSR-KOマウスの脊髄後角表層神経細胞から記録したEPSCsについて、NMDA/non-NMNMD比と時定数τについては現在解析中である。また、コントロール群の解析個体数が不十分であるため、今後、追加記録を行って結果を明確にする予定である。EPSCsの波形のキネティクスはチャネルの特性を示す。したがって、電気生理学的な本研究成果をもとに、NMDA受容体を構成する各種サブユニットの発現変化の検証へと、研究を展開させていく予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染症拡大の影響によって、当初参加を予定していた学会の中止やオンライン開催への変更等があり、旅費の使用額が予定より少なかったため、また研究遂行に遅れが生じたため、次年度使用額が生じた。次年度は、電気生理学的解析及び分子生物学的解析を進展させるため、記録に必要な試薬や器具等の消耗品の購入に充当し研究を推進させる予定である。
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