2018 Fiscal Year Research-status Report
ピアノ演奏におけるフレージングの意図伝達と個性表出に関する研究
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18K18491
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Research Institution | Soai University |
Principal Investigator |
橋田 光代 相愛大学, 音楽学部, 准教授 (20421282)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
片寄 晴弘 関西学院大学, 理工学部, 教授 (70294303)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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Keywords | フレーズ構造 / 意図の伝達 / 演奏表情 / 聴取スキル / ピアノ演奏 |
Outline of Annual Research Achievements |
音楽演奏者は、楽譜に書かれた作曲家の意図を読み取り、自身の解釈を加えて、音として実体化する。聴取者は、その演奏聴取を通じて奏者の個性を聞き取る。音楽の専門家でなくても、当該ジャンルを聴き込んだ者であれば、特段意識せずとも奏者の個性は理解できるものであるが、個性を識別できる理由や、その背景となる情報処理メカニズムについてはよくわかっていない。本研究課題は、個性表出の対象としてフレージングに着目して、この問題に迫るものである。 初年度は、BeethovenのPiano Sonata No. 8, Op. 13「悲愴」第2楽章ほか数曲を題材として、コンテスト受賞歴のあるピアニスト12名による演奏について、聴取者の側が、演奏者の想定した構造を受容できるかどうかの調査を行い、フレーズ意図の伝達度合いが高い演奏、そうでない演奏を分離・抽出するための類似度算出手法を検討した。予備実験として、楽器演奏経験のある者を中心に男女31名に対し、演奏者と同様のフレーズ構造記述方法を解説した後、順番に演奏を聴かせ、強弱記号などの演奏指示のない五線譜上に、聴取したフレーズの範囲と頂点を書き込んでもらった。演奏者と聴取者の捉えたフレーズ構造の類似性については、演奏者と聴取者の捉えた各フレーズ構造から連続した二つの階層から、フレーズ開始音から構成される音符集合を抜き出し、その集合に対して、類似性指標が最大になる階層レベルの組を求めた上で、フレーズ開始音、頂点音、終了音の各音符集合に対して類似性指標を計算する手法を用いた。 以上を通じて、(1)演奏者の意図したフレーズ構造の解されやすさを一覧して俯瞰できるようになった、(2)フレーズ構造の解されやすさについての順位付けができるようになった、(3)フレーズ開始音あるいは頂点音等の構造を担うデータ別に演奏表現の解されやすさも捉えることができるようになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の取り組みとして、ピアノ演奏を対象として演奏者が解した「フレーズ構造」が、聴取者にどのように伝わるかとう問題について取り扱った。その第1段階として、「フレーズ構造」の伝わりやすさを評定する手法を提案し、PEDB Edition 2(https://crestmuse.jp/pedb2/) の中からBeethoven の Piano Sonata No. 8, Op. 13 の複数の演奏例を対象とし、「フレーズ構造」の伝わりやすさの順位付けを実施し、初期的な検討を実施した。 聴取実験を通じて、フレーズ構造を形成するグループ開始音、頂点音、グループ終了音に対する一致度を求めた。これにより、演奏者の意図したフレーズ構造の解されやすさを一覧して俯瞰できるようになった。フレーズ構造の解されやすさについての順位付けができるようになった他、グループ開始音、あるいは、頂点音等の構造を担うデータ別に演奏表現の解されやすさも捉えることができた。これらを基礎データとして利用することで、人はどのような演奏表現上の特徴を捉えて、フレーズ構造を把握しているのかを検討していくための第一歩を踏み出せたと言える。一致度の高い演奏とそうでない演奏での演奏パラメータの比較、複数の演奏パラメータが関連する部分については、要素ごとの Analysis by Synthesis によって、演奏パラメータとフレーズ構造の解されやすさの関連について検討する方策を見出せたということである。また、この調査を通じて、ピアニストに指定した演奏構造の方が聴取者に伝わりやすく、また、実験の実施にあたっては、ある程度の音楽経験が求められることが確認された。 今後は、本稿で述べた手続きの則り、実験規模を大きくしてデータ収集を実施し「フレーズ構造」の伝わりやすさに関する演奏表現上の要因について検討を進める予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の聴取実験を通じて、構造の伝達という視点において、より客観性の高い演奏例を抽出する方法論を獲得した。その演奏例のMIDIデータを対象として、フレーズ構造と、強弱法、緩急法、アーティキュレーション等の演奏制御情報との関係を探っていく。 精細なデータフィッティングが第一目的であれば、各音に対して、Deep Learning に代表される機械学習を適用するのが優勢であるが、ここでは、音楽学や演奏教育での利用可能な知見を抽出することを主眼として、今までに知られている音楽構造、および、ここで指定したフレーズ構造の論理積を条件節とし、二次レベルまでのデータフィッテイングによって分析を行うものとする。この分析により得られた演奏者ごとの演奏制御パラメータとフレーズ構造の双方を検討していくことにより、個性表出のメカニズムを探っていきたい。
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Causes of Carryover |
物品費については実質額が予算計上時より安価に収まったので予算内には収まっている。初年度に調査研究として予定した国際学会への参加について、継続中の別研究課題での成果発表と重複したため、学会参加に関わる旅費および会議参加費の執行を不要とした。謝金については、被験者数を抑えて実験計画と分析手法の検討により時間を割いたため、予算計上より少額となった。計画遂行に支障はないため、次年度使用額については、今後の追加聴取実験などに充当する予定である。
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Research Products
(3 results)