2021 Fiscal Year Research-status Report
音韻獲得の言語相対論の新展開:クリック子音獲得の事例研究
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18K18500
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
中川 裕 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (70227750)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2023-03-31
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Keywords | クリック子音 / 音韻獲得 / コイサン |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度の主要な調査活動は、(1)蓄積してきた資料の整備と精密な観察・分析と、(2)副産物的な成果として開発した正書法と識字学習ツールの拡張と更新だった。本来予定していたボツワナ共和国カラハリ地域における現地調査はコロナ感染状況がいぜんとして深刻なため実現することができず、その実施は研究期間を延長して、2022年度にする申請を行い承認を得た。 上記(1)については、2020年1月までに収集したグイ語音韻獲得データに、さらに1990年代の資料を加えた:すなわち過去において現地調査で収集した録音とフィールドノート記録に子供の発音資料を「発掘」して整理したデータを併せて資料群を拡大整備した。そして、昨年度に引き続き、クリック獲得の過程で観察される置換音パタンがもつ理論的含意に関する考察を、追加資料分析をもとに進めた。この考察の結果は、日本音声学会で行った特別講演「多数のクリック子音をもつ言語は音韻体系をどう組織化するか:コイサン諸語の子音・母音・音素配列」の内容に含まれる子音の音韻的解釈にも反映している。(2)については、研究代表者と研究協力者が、日本アフリカ学会第58回学術大会でポスター発表した。またその後、識字学習用のイラストを追加してオンライン・ツールを充実させた。 従来の研究では探求されてこなかった「多数のクリック子音をもつコイサン諸語の音素体系を子供はどのように獲得するか?」という問いに取り組む本研究は音韻獲得研究の射程を拡張しつつある。また、音韻獲得の研究指針に「獲得の難しい音類に関する探求」を組み入れることで、音韻獲得の言語相対性(個別性・類型性)の理論の発展に新しい光を与えつつある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
コロナ禍により海外出張ができず、予定していたボツワナでの現地調査ができなかった。そのため、現有データの分析にもとづく一般化の検証がいまだに不十分である。
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Strategy for Future Research Activity |
研究期間の延長の申請が認められたので、2022年度に追加資料収集のための現地調査をして、その分析結果をもとに、これまで提案してきた一般化の精緻化をする予定。現地ホストであるボツワナ大学の共同研究者から現地のコロナ 感染状況の情報を受け、フィールドワークの時期について慎重に決める。その間に、過去の録音資料の中から関連する音韻獲得資料を発掘し、調査資料に加え整備するという「発掘言語学的」アプローチも援用する。
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Causes of Carryover |
予定していた海外出張がCOVID-19の世界規模蔓延のため実現できなかった。そのために次年度使用額が生じた。 研究期間の延長を申請し認められた。延長期間に、国内外、特に出張先の地域のコロナ禍の収束の状況をみながら、追加資料収集のための現地調査、ワークショップの現地開催のための時期を慎重に決め、実施する。
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Research Products
(7 results)