2018 Fiscal Year Research-status Report
消えゆく「数文化」のドキュメンテーション-エスノマセマティックス的視点から
Project/Area Number |
18K18507
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
西本 希呼 京都大学, 人間・環境学研究科, 特定研究員 (10712416)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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Keywords | 数概念 / エスノマセマティックス / 数える行為 / 数詞の少ない言語 / 数の認知科学 / 多様性と普遍性 / 科学社会学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、「数詞がない、少ない言語」に着目して、人間の数概念や数える行為について考察することである。数詞がない言語、数詞が少ない言語はオーストラリア原住民の言語や南米・北米インディアンの言語に今も多く観察される。しかし、それらの言語話者の実際の生活を調査することや、政府や国家による厳格に保護されている先住民との接触や調査許可には、莫大な時間(10年以上)と予算を必要とするため、当面は入手可能な文献資料と、その先住民言語を今も話す母語話者で都市部に移住してきている話者を探すことが、本研究を長期的視点に立ち挑むための最初のステップである。 初年度は、9月にオーストラリアの原住民の言語資料・情報を多く所蔵するAIATSIS(Australian Institute of Aboriginal and Torres Strait Islander Studies )へ情報収集へ行った。2019年2月に、数詞のすくない言語を話す先住民を追い求めて、ボリビア多民族国家へ予備調査へ赴いた。3週間の滞在ではあったが、運転手をつけ、日本の3倍あるボリビアの平地地帯を2週間毎日車で移動し、村々を訪ね、最後の数日で、ようやく数詞が3くらいまでしかない千キト語話者に出会うことができた。「ない」ことを証明することはたやすくなく、そして、現在、現地の先住民言語を大切にしようという政府の動きがある一方、どの村々でもスペイン語による会話が目立つ。スペイン語が広く浸透したなか、チキト族でさえ自身の言語に数詞が2か3までしかないことを知らない。2月の調査資料をまとめ、2019年8月デンマークで開催される言語生態学会で発表する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
2019年2月にボリビア多民族国家へ、数詞の少ない言語として文献に書かれているチキト語話者を追い求めて1か月間調査へ赴いた。これまでアフリカや南太平洋を中心に調査してきたため、南米での調査は初めてであるが、日本の国土の3倍もあるボリビアにて、通算2000km以上運転手とともに地方都市から村から村へと、先住民言語を話す話者を追い求めて調査した結果、96歳の男性で、L村の創設者に最後出会うことがあり、「数詞が3までしかない」ということを、記録し録画することが可能となった。現代技術が浸透し、スペイン語モノリンガル話者が増えている今、先住民言語を話す話者数名と出会うことができ、「ないこと」を証明するための記録資料を得たことは本研究にとって非常に大きな進歩である。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度に引き続き、オーストラリアの先住民言語に関しては手に入る二次資料を中心に集め、今年2月にボリビアで得た調査資料をまとめ、「数詞の少ない言語」を事例に、なぜ数詞が少ないのか、について問う。「数詞が少ない言語話者は、計算しているのか、どうやって数えているのか」ではなく、「なぜ数詞が少ないのか」ということを問うことが大事であることが本研究を進めるうえで気が付いた視点である。
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Research Products
(6 results)