2018 Fiscal Year Research-status Report
Exploring Perspectives of "Science of Japanese Historical Documents" from the Scope of Mixture Analysis of Papers in the Early-modern Period
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18K18534
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Research Institution | National Museum of Japanese History |
Principal Investigator |
渋谷 綾子 国立歴史民俗博物館, 大学共同利用機関等の部局等, 特任助教 (80593657)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
石川 隆二 弘前大学, 農学生命科学部, 教授 (90202978)
高島 晶彦 東京大学, 史料編纂所, 技術専門職員 (10422437)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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Keywords | 古文書科学 / 前近代の和紙 / 混入物 / DNA分析 / 構成物分析 / 古文書の起源 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,1. 古文書の分類と製紙材料の構成物としてのデンプンなどの種類・量・密度等の対象比較による紙の質的比較解析,2. DNAによる和紙の製造手法・地域・時期の分析,3. これらの分析手法を統合した「古文書科学」という研究分野としての可能性探索,という3つを軸とする。2018年度は,資料調査と混入物の分析,現生サンプルのDNA分析による紙材料の識別実験,混入物の標準的データの抽出を試みる。混入物の分析は,(1)資料調査と紙の繊維の分析,(2)混入物の分析,(3)多角的研究,(4)文書研究の4つを柱として設定する。料紙の成分特定については,分担者(石川)とともに現生の紙や原料サンプルのDNA分析を実施し,繊維や糊などの構成物の由来材料を特定する。
今年度において,分析・検討を行ったのは主に次の項目である。すなわち,東京大学史料編纂所所蔵「中院一品記」の顕微鏡撮影画像の再解析(渋谷),国立歴史民俗博物館所蔵「廣橋家旧蔵記録文書典籍類」の顕微鏡撮影画像の再解析(渋谷),「松尾大社所蔵資料」および米沢市上杉博物館所蔵「上杉家文書」の顕微鏡撮影と構成物の解析(高島・渋谷),現生の紙原料サンプル(カジノキ)のDNA分析(石川・渋谷)。
また,AWRANA2018(フランス,2018年5月)や日本文化財科学会第35回大会(2018年7月),第33回日本植生史学会大会(2018年11月),Workshop on Integrated Microscopy Approaches in Archaeobotany 2019(イギリス,2019年2月)では研究手法の紹介と結果の見込みについて報告し,書籍『Integrated Studies of Cultural and Research Resources』では2018年度前半までに得られた研究成果について報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年度は,各種調査・分析の結果が得られており,計画通り順調に進展している。
構成物分析は,先行研究で蓄積されてきた成果にもとづき,構成物の種類の特定と量・密度の計測を行い,植物学的特徴の記述とあわせて分析の基本項目を設定した。顕微鏡観察・撮影では,古文書一紙につき4~6箇所、文字の有無を問わず,料紙の大きさにあわせて複数箇所を選択し,撮影箇所の数値による記録を行った。さらに,料紙の素材にあわせて反射光/透過光、構成物の種類にあわせて偏光ポラライザーを用いるという撮影方法も確定させ,再現性の確保をはかった。これらの方法により,東京大学史料編纂所所蔵「中院一品記」,松尾大社所蔵史料,上杉博物館所蔵「上杉家文書」の調査・研究を実施した。「中院一品記」は顕微鏡撮影画像の解析によって構成物の植物種の同定を行った。結果として,構成物の密度の差異がより明確になり,填料の植物としてイネ(米粉)と別のイネ科穀類の使用された可能性が判明した。松尾大社所蔵史料,上杉家文書の調査資料は,構成物の種類の特定と量・密度の計測を行った結果,構成物の含有量に時期的な変化が見られ,填料の植物にはイネ(米粉)と別のイネ科穀類が使用されているという結果が得られた。植物学的特徴は今後も検討を進める予定である。DNA分析では,日本の和紙に利用されるカジノキ類での葉緑体多型の検証を試みた。現生カジノキ試料を用いて,既報の2ゲノム間の比較によるマーカー作成(葉緑体ゲノムの比較),異なる多型とこれらの位置を増幅するプライマーの開発を進めた結果,設定した分子マーカーのうち3マーカーで日本の系統が比較可能であることが判明した。さらに,アカソ,アオソ,カナメ,ナス,タオリの5種類のマーカーを解析したところ,母系列は4グループに分かれることも判った。
いずれも2019年度に開催される国内外の学会で報告する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度は資料調査と混入物の分析,およびDNA分析の実施を継続する。分析プロセスの確立を行うとともに,分析結果の共有化・標準化を実施,歴史資料の製造地域や武家・公家による相違などの特性と,歴史的変遷について検討する。現生サンプルのDNA分析による紙の識別実験も継続し,実験結果の検証を進める。さらに,自然災害で被災した歴史資料の修理・保存の研究を進めている他の研究機関の研究者と連携し,紙の混入物から各資料の科学的性質を明らかにすることで,資料の状態に即した保存科学の方法の検討を行う。
2018年度研究成果は,日本文化財科学会第36回大会(2019年6月),International Workgroup for Palaeoethnobotany(2019年6月),Digital Humanities(2019年7月),日本植生史学会などの国内外の学会で研究発表を行い,研究成果を広く発信する。さらに,成果報告として,査読付き学術雑誌への投稿準備を進める。
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Research Products
(17 results)