2018 Fiscal Year Research-status Report
日本の国際関係論における「ゆがみ」の発見とその意味-「観察批判論」からの接近
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18K18557
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
山田 高敬 名古屋大学, 環境学研究科, 教授 (00247602)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
赤星 聖 関西学院大学, 法学部, 准教授 (20795380)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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Keywords | 国際政治理論 / グローバル国際関係論 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度の平成30年度には、2000年度以降に刊行された日本国際政治学会編集の『国際政治』に掲載された論文のうち、コーディング結果の最終判断を残し、2015年から2011年までの掲載論文の全てにつきコーディングを完了させた。これに加えて、当該論文の著者の経歴(CV)データも収集した。理論パラダイムや方法論の分布と研究課題の分布の関係性についての本格的なデータ解析および、他国のデータとの比較やTRIPサーベイ・データとの比較は、これからであるが、特定の理論パラダイムに依拠しない研究が多いことや、理論を記述するための道具としてのみ使う論文が多いことなど、幾つかの特徴は可視化された。 また昨年度は、合計で4回の研究打ち合わせを行った。まず7月末に、研究補佐員を対象とするコーディング研修を実施し、それと並行して、研究代表者と研究分担者の間で第1回の研究打ち合わせを開催した。そして11月初頭には、連携研究者も交えて、第2回の研究打ち合わせを日本国際政治学会年次大会と併せて開催し、データ構築の進捗状況を確認するとともに、各自の研究テーマに関して意見交換を行った。さらに11月末には、研究代表者および研究分担者がベルリン自由大学に赴き、同大学で同類の研究を行っている研究者と意見交換を行った。その結果、今後日本とドイツの比較分析を共同で実施し、その成果を本年度新潟県で開催される日本国際政治学会年次大会の部会で発表することが合意された。これを受けて、同学会の企画委員会に研究報告の企画案を提出したところ、審査の上承認された。年度末には、初年度の研究成果の総括を行うため、連携研究者を交えて研究会を開催し、今後の研究の進め方について意見交換を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
引用文献のコーディングまでは、手が回らなかった。また2017-2018年のTRIPサーベイへの回答率が低かった(前回は190の回答に対し、今回は87の回答)ことが年度途中に判明したことにより、理論パラダイムの分布と回答者が重視する研究者の国籍分布との関係や、米国起源の理論の日本の国際関係論研究への影響などを定量的に測定すること、そして日本が直面する外交課題への関心が研究課題の選択に与える影響を定量的に評価することは容易ではなくなった。また人道支援と環境問題などに関する傾向についても、最新のTRIPサーベイのデータを使うことで、どの程度確定的なことが言えるのかは不透明となった。 けれども、本研究の中核にある『国際政治』の掲載論文のコーディングに関しては、順調に進んでいる。また、このデータに著者の経歴(CV)データが加わったことで、たとえば、著者の欧米への留学経験と特定の欧米起源の理論パラダイムを支持する傾向との関係や、大学院教育を受けた時期と依拠する方法論の傾向との関係などが明らかにされる可能性が生まれたことは、大きな収穫となった。 またTRIPサーベイ・データに関しても、前回のものと組み合わせて使うことで、パターンに一貫性があるものと、そうでないものに分けることができると予測されるため、一貫性のあるものに関しては、日本が直面する外交課題への関心が研究課題の選択に与える影響を定量的に評価することは可能であろう。したがって、たとえば、安全保障への関心の程度と、非軍事的な問題領域を研究課題として選ぶ傾向との相関関係を測定することは可能であると考えらえる。何れにしても、その土台となる学術論文データが予定通り収集できたことの意義は大きい。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、学術論文データ・セットを完成させ、それと過去2回のTRIPサーベイ・データを合わせることにより、(1)理論パラダイム・方法論の分布と研究課題の分布との関係、および(2)研究課題の分布と日本を取り巻く国際政治状況との関係について解析を行う予定である。とくに前者に関しては、客観的データである学術論文データと、主観的なデータであるTRIPサーベイ・データを比較し、両者の間の違いがどこにあるかを明らかにする。これと並行して定性的な分析も進め、夏季休暇中に本年度最初の研究会を開催し、各自の研究成果を共有する。 本年度の前半は、上記の(1)と(2)の課題を中心に研究を進め、ベルリン自由大学の研究チームが実施する同類の研究プロジェクト(Global Pathways Project)で得られた結果との比較を、同プロジェクトのPIの協力を得て、行う。そして本年度10月には、このプロジェクトのPIであるベルリン自由大学のL. マチス氏を本研究課題の連携研究者として日本に招聘し、日独両研究チームの共同研究の成果を日本国際政治学会年次大会の「グローバル化する国際関係論研究における『ゆがみ』現象―日独の比較から―」と題する部会で報告する。また本研究の連携研究者の1人である立命館大学の安高啓朗氏には、日本における批判理論研究の特色について上記のデータを基に分析していただき、分析結果を当該部会で報告していただくことを予定している。 本年度の後半は、引用文献データの収集を行いつつ、環境および人道主義の分野などにおける定性的な分析を代表者、分担者および連携研究者のそれぞれが実施し、年度末に開催する研究会でその成果を報告する。
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Causes of Carryover |
一つには、学術論文データのコーディングを担当する研究補佐員の確保と研修に予想以上の時間を要したため、当該データのコーディングの開始時期が予定よりも遅れ、それに伴って人件費が当初予定されたレベルに到達しなかったことから、予算執行が年度を跨ぐ結果となったためである。 もう一つの理由は、上述したように、本年度は、新潟県で開催される日本国際政治学会年次大会の部会でGlobal Pathways Projectとの共同研究の成果を報告していただくために、新たにベルリン自由大学のL.マチス氏に本研究課題の連携研究者として加わっていただき、同氏を年次大会に合わせて日本に招聘する必要が生まれたことから、それを実現するための予算措置として次年度への繰り越しが必要となったからである。 以上、二つの理由から、本課題の研究代表者は、止むを得ず、予算を次年度に繰り越すことを研究分担者の同意の下で決定した次第である。
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Research Products
(1 results)