2019 Fiscal Year Research-status Report
日本の国際関係論における「ゆがみ」の発見とその意味-「観察批判論」からの接近
Project/Area Number |
18K18557
|
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
山田 高敬 名古屋大学, 環境学研究科, 教授 (00247602)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
赤星 聖 関西学院大学, 法学部, 准教授 (20795380)
|
Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2021-03-31
|
Keywords | 国際政治理論 / グローバル国際関係論 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度に完成させた『国際政治』掲載論文のコーディング・データをもとに、対象論文において援用された理論パラダイムや方法論の分布と研究課題の分布との関係性などについて統計的な解析を実施するとともに、その解析結果を、同様の研究を行っているベルリン自由大学の研究チームから入手したアメリカの国際関係論専門誌2誌(ISQ および IO)に関するデータと、ドイツで刊行されている同類の専門誌 (ZIB)のデータ、さらには2014年および2017年に実施されたTRIPサーベイ・データと比較することで、日本における国際関係論の特徴を明らかにした。 9月初旬に、これらの解析結果を確認した上で、それを研究論文にまとめ、ベルリン自由大学チームを代表して来日したM. ローハウス博士と、本研究課題の連携研究者である立命館大学の安高啓朗氏とともに、新潟で開催された2019年度日本国際政治学会年次大会にて同研究成果を報告した。その後、比較対象をイギリスのRIS, 欧州全体を対象とするEJIR、およびアジア太平洋地域を対象とするIRAPに広げ、同様の比較分析を行い、その成果を上記の研究大会時に得られたコメントなども参考にしつつ、新たな研究論文にまとめて、本年3月、ホノルル(米国ハワイ州)で開催予定であった米国国際政治学会(ISA)における研究報告に向けて準備した。 上記の研究からは、日本の国際関係論研究の特徴に関して、次の3つの結論が得られた。第1に、日本における国際関係論研究は、理論志向の低い外交史研究および地域研究に偏重している。第2に、それに伴い、数量的、数理的な分析手法ではなく、記述的な分析手法が最も頻繁に使われている。そして第3に、理論パラダイムの中では、コンストラクティビズムに依拠した研究が最も多く、仮設検証のための科学的な手法として過程追跡方法が最も多く使用されている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予定していた引用文献のコーディングに関しては、それに着手はしたものの、我が国においては社会科学分野における文献引用がデータベース化されていないことから、全ての対象論文について手作業での測定を必要とした。そのため、残念ながら、当該データベースを年度内に構築することは実現しなかった。したがって、このデータの解析によって得られたであろう、アメリカあるいはイギリスを起源とする理論の日本の国際関係論研究への影響などを定量的に測定することは、今後の課題として見送られた。 また対象論文の著者の経歴(CV)に関するデータベースについては完成したものの、予定したエフォート内で、それを解析するまでには至らなかった。その結果、著者の欧米への留学経験と著者が支持する欧米起源の理論パラダイムとの関係、あるいは著者の大学院教育の時期と著者が分析に使用する方法論との関係などを明らかにすることはできなかった。また同様に予定したエフォート内で、日本が直面する外交課題への著者の関心と著者による研究課題の選択との関係を定量的に評価することも果たせなかった。とくに安全保障への関心の程度と、非軍事的な問題領域を研究課題として選択する傾向との関係について今後分析できればと考えている。このような限界はあるものの、日本における国際関係論研究に関して、他国との比較において、その特徴を数値化できたことの意義は大きいと言える。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年3月末にホノルル(米国ハワイ州)での開催が予定されていたISA年次大会が米国内でのコロナウイルス感染拡大によって中止に追い込まれたため、改めて5月中旬に、ベルリン自由大学の研究チームの主催でオンライン・ワークショップが開催されることとなった。本課題の研究代表者および研究分担者は、このワークショップに参加し、構築したコーディング・データに基づき、日本の国際関係論研究における理論パラダイムおよび方法論の分布と研究課題の分布との関係性、さらには日本の国際関係論研究のグローバル化を可能にする他国の国際関係論研究との共通性について報告を行う計画である。そして、そこでの議論を参考に論文を修正し、日本の国際関係論研究の動向に購読者が関心を寄せると想定されるIRAPに同論文を投稿する予定である。 本年度の後半には、残された課題の中から、とくに対象論文の著者の経歴(CV)に関するデータの解析を進め、著者の欧米への留学経験と著者が支持する欧米起源の理論パラダイムとの関係、あるいは著者の大学院教育の時期と著者が分析に使用する方法論との関係などを明らかにするとともに、TRIPサーベイ・データを活用して、著者の安全保障への関心の程度と、非軍事的な問題領域を研究課題として選択する傾向との関係についても定量的に明らかにしたいと考えている。代表者および分担者が、とくに後者に関心を寄せる理由は、コンストラクティビズムに依拠する環境問題や人権問題などに関する研究が日本の国際関係論研究のグローバル化にとって重要であることが今回のデータ解析から明らかになったことから、そのようなグローバル・イシューについての研究を促進する日本の国際政治状況について定量的な分析が不可欠であると考えるからである。
|
Causes of Carryover |
最大の理由は、上述したように、米国内でのコロナウイルス感染拡大により、本年3月26日に研究成果の報告を予定していたホノルル(ハワイ州)でのISA研究大会が直前になって中止され、その結果、一旦支払われた代表者および分担者の同大会への参加費および出張経費が急遽払い戻され、本予算を予定通り執行できなかったからである。 そのため、本課題の研究代表者は、止むを得ず、予算を次年度に繰り越すことを研究分担者との同意の上、決定した次第である。
|
Research Products
(2 results)