2021 Fiscal Year Research-status Report
日本の国際関係論における「ゆがみ」の発見とその意味-「観察批判論」からの接近
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18K18557
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
山田 高敬 名古屋大学, 環境学研究科, 教授 (00247602)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
赤星 聖 関西学院大学, 法学部, 准教授 (20795380)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2023-03-31
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Keywords | 国際政治理論 / グローバル国際関係論 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度の主な研究実績は、以下の2点である。一つは、2020年5月にベルリン自由大学の研究チームと共同でオンライン開催した会議の際に提出した論文を加筆修正した。もう一つは、2022年3月に開催された米国国際政治学会で研究成果を報告したことである。
前者に関しては、『国際政治』掲載の論文から得られたデータを新たな基準(特に方法論に関して記述的な研究と事例研究の違いに関する基準を明確化)で分析し直し、米国のInternational Studies Quarterly及びInternational Organization、ドイツのZeitschrift fur Internationale Beziehungeなど海外学術誌のデータとの比較可能性を向上させ、さらに日本の特徴である低理論依存性が日本における外交史研究や地域研究の優位性と強い相関があることを統計学的に示した。その上で、改めて日本の国際関係論がグローバルな国際関係論に統合するポテンシャルについてコペンハーゲン大学のクリステンセンの研究などを参考に多角的に検討した。
後者に関しては、上記の研究成果をドイツ側の研究者と共有した上で、さらに発展させ、その成果を上述の米国国際政治学会で報告した。報告では、グローバルな国際関係論の「中心」の外郭に存在する日本とドイツの国際関係論がどの程度「中心」に統合されているのかを欧米の学術誌への投稿論文の数や海外博士号取得者の数などのデータを基に分析し、さらにそのような統合を妨げる要因についても検討した。分析の結果、日独の研究者の大部分が自国内で学位を取得していているため「中心」からの独立性が高いという点や、日本ではドイツよりも母国語での研究成果発表に重点が置かれている点、さらにはドイツと比較して英語を媒体とする海外専門誌における日本人研究者のプレゼンスが低い点などが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
分析対象となった『国際政治』及びZeitschrift fur Internationale Beziehunge (ZIB)の両専門誌への 掲載論文の著者の経歴(CV)データを分析し、著者の欧米への留学経験(博士号取得の有無)と海外ジャーナルへの投稿傾向との関係に関する国際比較を実施することができた。また、COVID-19の感染拡大により海外渡航が困難となったことから予定していたドイツの研究者との対面でのワークショップは実現しなかったものの、論文を共同執筆するという目標はなんとか達成できた。そして、その論文をオンラインではあったが、上述の米国国際政治学会(ISA)研究大会にて発表することができ、研究関心を共有するアメリカ、イギリス及びデンマークの研究者と研究成果を共有できたことは意義深かった。ただ、著者の欧米への留学経験(博士号取得)と著者が支持する欧米起源の理論パラダイムや方法論との関係あるいは、国内における教員人事の採用・昇格基準、研究助成金の採択基準、研究業績の評価基準、海外との学術交流の歴史等が研究者の研究戦略に与える影響などについての分析を開始はできたものの、完了することはできなかった。
また日本の国際関係論の特徴に関する分析に関しては、2019年度の日本国際政治学会研究大会および、2020年度に実施したベルリン自由大学の研究チームとのオンラインワークショップで得られた貴重なコメントを基に、さらにそれ以降に実施したコーティング基準の見直しとデータ解析の再実施を踏まえて、既存の論文の質の向上を図るとともに、同論文に日本の低理論依存性と外交史研究や地域研究の優位性との間に強い相関が認められたことを加筆することができた。その点で論文の刊行に向けて一歩大きく前進したと言えよう。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度に入り、日本の国際関係論の特徴を分析した上記の論文をアジア・太平洋地域に関する国際関係論の英文ジャーナルとして知られるInternational Relations of the Asia-Pacific (IPRA) に投稿した。そのため、まずは同論文の掲載に向けて必要な編集作業を遂行する予定である。
さらに本年度は、日本とドイツにおける国際関係論の「中心」への統合度を定量的に測定する指標として米国国際政治学会(ISA)研究大会などへの参加度を追加して、コーディング対象となっている『国際政治』及びZIBの掲載論文の執筆者が、どの程度国外の学会において報告者として参加してきたのかを測定する。その上で国外の学会で研究成果を報告する研究者に共通して見られる属性(海外での学位取得の有無、出身大学、研究テーマ、理論、方法論など)を明らかにする。さらに、その結果をドイツ側の分析結果と比較検討するために、ベルリン自由大学の研究者と対面で分析結果の解釈に関する意見交換を行う。最終的に、グローバルな国際関係論研究への統合を妨げる要因(国内における教員人事の採用・昇格基準、研究助成金の採択基準、研究業績の評価基準、海外との学術交流の歴史等)を特定する。それにより、日本の国際関係論のグローバル化に向けた課題を明らかにし、どのようにすれば、欧米を中心に展開する理論構築に日本の研究者が意味のある形で参加できるのかを提案したい。日本側の検討結果をドイツ側の研究協力者と共有し、共同研究の成果を論文にまとめ、海外の学術誌に投稿するとともに、可能であれば国内外の学会で研究成果を報告したい。
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Causes of Carryover |
本課題の研究代表者および分担者は、国内外の新型コロナウイルスの感染拡大により、本課題の最終年度に予定されていた海外の研究者との対面による共同研究・共同執筆の打合せ、ならびに海外で開催された国際学会への対面による参加をそれぞれ見送らざるを得なかったため、本予算を予定通りに執行できず、研究代表者は、当該予算を次年度に繰り越すことを提案し、分担者の同意の上、その繰越を決定した。
したがって本年度は、4で言及した課題を実施するため、すなわち日独における国際関係論のグローバルな国際関係論への統合を可能にする研究者の属性を明らかにするための共同研究を実施する目的で、9月から10月にかけてベルリン(ドイツ)に渡航することに繰り越した予算を使用する予定である(代表者および分担者それぞれ50万円)。もし新型コロナウイルス感染症の関係でそれが困難になった場合には、研究関連図書および論文の英文校正代として予算を使用する予定である
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Research Products
(2 results)