2018 Fiscal Year Research-status Report
メタゲノム情報からの難培養菌が要求する因子の特定と利用による培養可能化
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18K19221
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
藤田 雅紀 北海道大学, 水産科学研究院, 准教授 (30505251)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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Keywords | 共生細菌 / 海洋天然物 / メタゲノム / FISH / 生合成 |
Outline of Annual Research Achievements |
共生様式の解明 ミカーレ属カイメンから得られる抗腫瘍抗生物質の生合成遺伝子をカイメン共生細菌メタゲノムから見出し、その生産菌を新規性の高い未同定細菌と明らかにしている。有用共生細菌の培養可能化のためにその共生様式の解明を試みた。まず、宿主であるミカーレ属カイメンの詳細な生活環解明のために、熊本県天草諸島において海中水族館の協力を得て年間を通じて観察を行った。その結果、ミカーレ属カイメンは単年生で初夏に幼生を放出し、数時間で着底する事、また初冬から顕著に成長し初春には最大化する事が明らかになった。初夏に成体、胚、幼生の各ステージのサンプルを取得する方法を確立し、固定および切片の作成を行った。また、既に明らかにしている生産菌に特異的な16S rRNA配列およびマイカロライド類の生合成遺伝子配列を指標にFISH解析を行った。しかし、カイメン宿主の自家蛍光のために、生産菌の検出は困難であった。そこで、カイメンから共生細菌懸濁液を取得し、それを用いてCARD-FISHの各種条件検討を行ったところ、特異的に染色される桿菌を見出すことに成功した。 メタゲノム解析 マイカロライド類の生合成遺伝子は既に明らかになったが、生産菌の全ゲノムおよび生産菌との化学的相互作用が推測される他の共生細菌のゲノムに関してはほとんどが不明である。そこで、日本各地および各季節に採取したミカーレ属カイメンメタゲノムの細菌叢解析およびロングリード解析を行った。その結果、いずれのミカーレ属カイメンからもマイカロライド生産菌を見出した。また、共生細菌群衆構造は季節や場所により変動するが、常に見出される常在細菌を検出した。ロングリード解析の結果から、マイカロライド生産菌ゲノム約3Mb分のドラフト配列を決定し、本種が16S配列から予想されていたVerrucomicrobium門には属さない可能性が示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
共生様式の解明 これまでミカーレ属カイメンは一年間に数回、最も潮が引く日の限られた時間帯でのみ採集可能であったが、今年度の観察および採集の結果から、初冬までの期間でもサイズは小さいながらも採取可能である事がわかった。また、海中水族館の協力により年間を通じてサンプルの取得と維持が可能になり、今後の研究を進めるにあたり大きな前進であった。幼生および胚の取得と固定も方法を確立し、実験室へ持ち帰り各種検討が可能となった。現在まで個体レベルでの共生様式の観察はできていないが、共生細菌懸濁液での検討から、マイカロライド生産菌の染色条件を確立し、その細胞形態を明らかにでき今後の研究へ応用可能となった。上記の事から、本項目においては極めて大きな前進があったといえる。 メタゲノム解析 これまで次世代シーケンスの主力であったショートリード解析では、繰り返し配列が極めて多いマイカロライド生産菌のゲノムを決定するには限界があった。しかしながら、本年度から急速に普及してきた第三世代型のシーケンサーであるMinIONを導入する事で、繰り返し配列を乗り越えるロングリードデータを取得する事ができた。また、これまでは外部委託の形でDNA配列解析を行っていたが、MinIONを用いる事で研究室内で簡便かつ短時間でメタゲノムデータを収集する事ができる。これにより当初の想定を大きく超える早さでマイカロライド生産菌ゲノムのドラフト配列を得る事ができた。現在は生産菌の高精度なゲノム配列の決定とそれによる代謝機能解析を行っている。さらに、簡便にメタゲノム解析が可能になったことから、各季節および地域の近縁カイメンメタゲノムを解析する事で、マイカロライド生産菌以外の常在細菌を見出し、微生物間相互作用の検討を行う準備が整った。
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Strategy for Future Research Activity |
共生様式の解明 本年度の検討により、マイカロライド生産菌を特異的に染色するためのプローブの設計、および染色条件の確立ができ、その細胞形態を明らかにできたことから、次年度においては個体レベルでの共生様式の確認を行う予定である。具体的には5月下旬から6月上旬にかけてのカイメンの世代交代の期間において、成体、胚、および幼生を採取し固定する。今年度は切片を作成せずにホールマウントFISHにより、マイカロライド生産菌が生活環の各ステージにおいてどこにどの様に共生しているのか、また次世代にどの様に伝播していくのかを明らかにすることで、分離および培養可能化に関わる情報を取得する予定である。さらに本年度は試験管に着底させて実験室で生きたままカイメンを維持する事で、解放環境では困難な遺伝子組換え実験や薬剤を用いた実験を実施する。 メタゲノム解析 三重県や神奈川県等の日本各地においてミカーレ属カイメンを採集し、メタゲノム解析を行う事で、マイカロライド生産菌ゲノムあるいは常在細菌ゲノムに共通する特徴を明らかにする。得られた情報から、代謝機能を明らかにし、欠損している遺伝子があれば、その代謝を補う培養条件、あるいは外来遺伝子導入を検討する。さらに、各地域季節で共通して存在する常在細菌とセットで培養するなど、マイカロライド生産菌の分離培養を検討する。また、実験室でカイメンの維持が可能になれば、抗生物質処理を行い、一旦共生細菌を除去した後に、水平伝播が可能かどうかや、薬剤耐性や蛍光タンパク質遺伝子を組み込んだ、組換え生産菌の共生実験を検討する。さらに、色素生産等のマーカー遺伝子を組み込み、フローサイトメーターで分離する事で、生産菌の濃縮と分離培養を試みる。
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Causes of Carryover |
生じた状況 本年度は第三世代型DNAシーケンサーであるOxford Nanopore Technology社のMinIONを導入する事で、劇的にメタゲノム解析の費用および効率が改善した。また、同じくミカーレ属カイメンを研究材料とする他機関の研究者とカイメンのサンプル採集およびメタゲノムDNA配列情報を共有する事で、解析費用を半減する事ができた。この様に、本年度は急速に第三世代型シーケンサーが普及したことで、配列解析を外部委託する機会が減り予算を次年度へ繰り越すこととなった。 使用計画 繰り越した予算は、当初予定していなかった日本各地のミカーレ属カイメンを解析するための費用とし、より詳細なマイカロライド類の生産菌ゲノム情報の取得、および地域による多様性を比較する事で、培養可能化に関わる情報の取得に利用する。また、昨年度の検討から、実験室環境でのカイメンの維持の見通しが立ったことから、本年度は屋内水槽設備の設置と維持を行う予定で、そのための費用として活用する。
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