2018 Fiscal Year Research-status Report
オーストリア政治教育の挑戦-教室空間で政治問題をいかに教えるか-
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18KK0065
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
草原 和博 広島大学, 教育学研究科, 教授 (40294269)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
池野 範男 日本体育大学, 児童スポーツ教育学部, 教授 (10151309)
川口 広美 (前田) 広島大学, 教育学研究科, 准教授 (80710839)
金 鍾成 広島大学, 教育学研究科, 助教 (90825837)
渡邉 巧 広島大学, 教育学研究科, 准教授 (00780511)
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Project Period (FY) |
2018-10-09 – 2021-03-31
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Keywords | 政治教育 / 政治的中立性 / オーストリア / 主権者教育 / 社会科教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
本科研では,政治教育の改革で成果を上げてきたオーストリアの「歴史・社会・政治科」(以後「政治教育」と略する)の取組に注目し,同国における政治教育の成立条件を究明するとともに,政治問題の扱いを忌避する傾向にある日本の社会科教育(主権者教育)の改善・改革に示唆を与えることを目的とする。 この目的を達成するために,1年次は,2年次以降の本調査に向けて予備調査と研究協力者との ラポール(信頼関係)づくりを実施した。具体的には,グラーツ市内のギムナジウム3校(A校:BG/BRG Kirchengasse/教員:Thomas Lang,B校:BG/BRG Keple/教員:Karin Buchegger,C校:BG/BRG Oeversee/教員:Bernhard Zapusek)とウィーン市内1校(D校:GRG10 Laaerber/教員:Hanna-Maria Suschnig)の実践と各校の社会的・文化的状況を観察するとともに,カリキュラムや教材等の基礎資料を収集した。教師と学校長には,政治教育の方針について聞き取りを実施した。本予備調査の結果,以下の成果が得られた。 第1に,政治教育の実践動向を大観できた。「ナチによるオーストリア併合」「1920年憲法の原則」「アジアの脱植民地化」「政治的勇気とは何か」「EUと私たちの暮らし」「自由研究」などの観察記録に基づいて,重点的な調査項目を確定できた。 第2に,教師の政治教育観を把握できた。すなわち,①政治的中立性は「教師・子どもの実践に対する政治的な縛りや自粛」ではなく「教師・子どもの政治的な発言や行動の自由」として理解されていること,②学校生活の中では,生徒は「大人=市民」,教室は「政治的空間」として扱われており,現にそのように機能していること,③歴史と現実政治,概念と倫理,分析と参加を重視した実践が行われていること,などが確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上のとおり,当初予定していた研究を実施できた。とくに以下の5点において,おおむね順調に進展していると評価する。 ①ウィーン大学のAlois Ecker教授,グラーツ大学のGeorg Marschnig講師と協力し,オーストリア国内の2地域で調査協力校4校を設定できたこと,また学校長等から研究協力の確約を採ることができたこと。②協力教員の授業観察と事前インタビューを通して,確実なラポートを形成できたこと。③中間報告会の開催を含めて,2年次の研究計画について合意できたこと,④1年次の研究立ち上げるに当たってキックオフミーティング「私たちはどのような視点で授業をみるか-日本の教科教育学とオーストリアの各科教授学-(教育ヴィジョン研究センター第8回研究拠点創成フォーラム」を開催できたこと。 なお,当初は,オーストリアの政治教育改革10年の経過を受けて,ステークホルダーに改革の進捗と効果に関して聞き取り調査を行う予定だった。しかし,学校の事前調査の結果,教育関係者はおおむね改革の効果を肯定的に捉えていること,学校長や教師がもつ経験や情報を介してステークホルダーの評価が間接的に判明したため,実施は見合わせた。この内容は,2年次以降の調査を通して,引き続き全体像の確定に努めることとする。
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Strategy for Future Research Activity |
1年次の研究成果を踏まえて,2年次は,第1期(2019年4月~5月),第2期(2019年9月~10月),第3期(2020年2月~3月)に分けて,以下2点の調査を実施する。各期の調査期間はおおむね1-2週間を原則とする。 第1に,授業観察と授業分析を実施する。4つの調査校,協力教員の「政治教育」の授業を継続的に観察し,実践記録を作成する。同記録に基づいて授業に内在する目標・内容・方法を再構成するとともに,同授業を成立させている学習環境や社会的な文脈を解釈する。 第2に,協力教員に視点を異にする2種類のインタビューを実施する。a.授業構成に関して:授業観察終了都度に5分程度のインフォーマルインタビューを実施する。①本時のねらいはなにか,②本時の前後の学習展開(単元構成)はどうなっているか,を把握する。b.政治的中立性に関して:各期に1回40-45分程度の半構造化インタビューを実施する。①「ボイテルスバッハコンセンサス」の3つの原則(の意味)をどのように認知しているか。②「ボイテルスバッハコンセンサス」の3つの原則を,普段どのように実践しているか,③そのような実践を行うようになった背景とは何か(被教育体験,教職課程・研修等での学び,個人的な信念・教育観,制度的・政策的な要請,学校や地域が置かれた状況・課題,生徒の問題関心など),を把握する。 なお,研究代表者の草原は研究の企画と総括を,池野範男は研究の評価を,若手研究者の川口広美,渡邉巧,金鍾成はデータの収集・解釈を担当する。 これらの調査結果に基づいて,2年次終了時には,日本の社会科教師を対象に政治教育の改善の視点と授業づくりのデザイン原則をまとめた速報論文(大学紀要等)を投稿する。また,脱政治化傾向(政治的なものに係わりたくない)が顕著な日本の学校教育を改善するガイドラインをオーストリアの共同研究者と協議し,素案を作成したい。
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Causes of Carryover |
旅費及び通訳謝金の執行が,当初予定額よりも僅かに下回った(15,013円)。本残額は,引き続き次年度の旅費及び通訳謝金として執行し,研究計画の確実な達成を期することとする。
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Research Products
(7 results)