2020 Fiscal Year Research-status Report
再分配制約を考慮に入れた資源配分のマーケットデザイン分析
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18KK0342
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
安田 洋祐 大阪大学, 経済学研究科, 准教授 (70463966)
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Project Period (FY) |
2019 – 2021
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Keywords | 格差 / パレート効率性 / 再分配 / 安定性 / 完全競争市場 / 非競争市場 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、完全競争市場をはじめとする様々な経済メカニズムが、効率性に加えて分配にどのような影響を与えているのかを評価できる理論的なフレームワークを構築し、経済メカニズムと格差との関係を分析することを目指している。基礎的な結果として、弱い効率性の概念を新たに提唱し、各参加者がたかだか1単位しか財を需要・供給しないような同質財の相対取引市場においてはすべての(弱)効率的な配分の中で競争均衡が財の交換を最も少なくすることを明らかにした。さらに、一定の条件のもとで異質財市場にこの結果が拡張できることも示している。
これらの結果は、完全競争市場がある意味で取引数量を最少化する、つまり競争均衡が取引が生み出すパイを最大化する一方でそのパイを受け取る人数を最少化してしまう、という二面性をもった資源配分メカニズムであることを示唆している。しかし、こうした規範的な分析結果は、現実の市場取引が競争均衡にどの程度近いのか、競争均衡と異なる配分結果はどのような状況で実現し得るのか、といった事実解明的な分析とは結びついていなかった。本研究が抱えてきたこの大きな課題を解決するためには、「分権的な相対市場においてどのような資源配分が成立しているのか」という事実解明的な問いに答える必要がある。
この分野で卓越した研究実績を持つのが、共同研究者のPais氏である。金銭授受を伴わないマッチング市場において、分権的な取引結果を精緻に理論分析した氏の一連の研究論文で用いられた手法は、(金銭授受を前提とする)本研究に拡張・応用できる可能性がある。また、Pais氏は数多くの経済実験を手掛ける実験経済学のエキスパートでもある。以上から、今後の国際共同研究では、(1)分権的な相対市場において起こり得る取引結果を予想/説明する理論モデルの構築、および(2)理論モデルと実験結果の整合性を確認する経済実験を行うことを目指していく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
3月27日に関西国際空港を出発し、ドバイ経由で3月28日にリスボンに到着した。ポルトガルに入国してからまだ数日しか経過しておらず、現段階で共同研究においては大きな進展も遅れも生じていない。「研究実績の概要」で言及したように、海外共同研究者であるPais氏の研究成果や研究手法は、本研究に足りなかった「分権的な市場においてどのような取引/資源配分が成立しているのか」という問いに答える上で大きな助けとなり得る。来年度に共同研究を本格的に進めていくにあたって、こうした研究上の背景を現段階で把握することができたこと、新型コロナ感染症の影響にも関わらず円滑に入国し生活をはじめられたことは、よい準備につながると確信している。
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Strategy for Future Research Activity |
3月31日にリスボン大学経済経営学部の建物内に用意されていた個室オフィスの鍵を受け取り、研究環境は整いつつある。ただ、ポルトガルが全国的に非常事態宣言下でテレワークを推奨していることもあり、同大学の研究者との交流は当面の間は限定的にならざるを得ない。そのため、(日本では時差の関係で参加が難しかった)欧州や北米で開催されているオンライン研究会などに参加すると共に、夏以降に欧州で開催される学会に積極的に論文を投稿して、研究者ネットワークを構築していく予定である。
共同研究者のPais氏とは定期的に研究打ち合わせを行い、夏頃までに共同プロジェクトの格子を固め、秋以降に具体的な研究ないしは共同論文の草稿執筆を開始する予定である。具体的には、(1)分権的な相対市場において起こり得る取引結果を予想/説明する理論モデルの構築と、可能であれば(2)理論モデルと実験結果の整合性を確認する経済実験を行いたい。十分な規模の経済実験ができるかどうかは、研究予算や今後の感染症の動向といった不確実な要素にも左右されるため、当面は(1)を優先し、まずは関連する先行研究の調査を共同で行う予定である。
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