2019 Fiscal Year Research-status Report
赤外円二色性とラマン光学活性による中分子・極性分子の高精度構造解析法の開発
Project/Area Number |
18KK0394
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
谷口 透 北海道大学, 先端生命科学研究院, 講師 (00587123)
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Project Period (FY) |
2019 – 2021
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Keywords | 円二色性 / ラマン光学活性 / 構造決定 / 柔軟分子 / 中分子 / 理論計算 |
Outline of Annual Research Achievements |
中分子や柔軟分子のような新奇分子の構造を簡便に分析する手法の開発に向けて、基課題(18H02093)では赤外円二色性(VCD)分光法を用いた研究を進めているが、本課題(18KK0394)ではVCDに加えてラマン光学活性(ROA)分光法を用いた研究を進めている。2019年度ではまず、ヌクレオシドならびにオリゴ糖の水溶液を用いた構造解析について研究を進めることとした。ヌクレオシドならびにオリゴ糖について、各種測定用サンプルを有機合成し、共同研究先にてROAを測定した。ROA装置の安定化などに多少時間がかかったが、ヌクレオシドの各種試料については良好なROAシグナルを観測することに成功した。 実測されたスペクトルから構造情報を得るために、理論計算を実施した。まず、解析対象の分子について分子動力学(MD)を用いて水分子200分子以上をあらわに考慮した系にて水溶液中の分子の振る舞いをシミュレーションした。次に、一定時間ごとのスナップショット10枚以上について、DFTを用いた構造最適化を行った。最後に、最適化された構造についてDFTを用いてROAスペクトルを計算した。理論計算ROAスペクトルは実測スペクトルをよく再現しており、このことからMD・DFTで予測したヌクレオシドの構造(立体配座)に矛盾がないことが示唆された。またこの手法を、ジアステレオマーの関係にあるヌクレオシドに対して用いたところ、これらのジアステレオマー識別と構造決定にも用いることができることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
基課題(18H02093)ならびに本課題(18KK0394)では柔軟分子・極性分子・中分子などの構造解析法の確立を目的としている。ヌクレオシドのフラノース部位の立体配座は核酸医薬の活性において重要であることが示唆されているものの、その柔軟性のためにNMR(シャッタースピードの遅い分光法)などの従来法を補う分析法の開発が望まれていた。ヌクレオシドへのROA分光法の適用は初めてではないが、理論計算が困難であり、これまでROAスペクトルから構造情報を抽出するのは困難だった。本研究では、理論計算条件を各種検討し、MDを取り入れるとともにONIOM法のDFT計算を用いることによって、ヌクレオシドにおいて初めてROAを精度良く計算することに成功し、その構造情報を抽出できることを示した。本結果は論文化まで間近であるため、自己評価を(2)とした。
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Strategy for Future Research Activity |
ヌクレオシドのROA構造解析研究の論文化に向けて現在、いくつかのヌクレオシドについて重水素置換した分子を合成しており、合成完了次第ROAを測定し、それを軽水素体のROAと比較することによって各ラマンシグナルの振動モードの帰属を行うとともに、論文化を目指す。また、ヌクレオシドとは別に糖、ペプチド、脂質についても研究を継続あるいは開始する予定である。国際共同研究ということでコロナウイルスの影響を多大に受けるため、今後の社会情勢を見極めながら柔軟に研究を推進する。
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