2022 Fiscal Year Research-status Report
赤外円二色性とラマン光学活性による中分子・極性分子の高精度構造解析法の開発
Project/Area Number |
18KK0394
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
谷口 透 北海道大学, 先端生命科学研究院, 講師 (00587123)
|
Project Period (FY) |
2019 – 2023
|
Keywords | ラマン光学活性 / 理論計算 / 構造解析 / ヌクレオシド / 糖 |
Outline of Annual Research Achievements |
新規分子の構造解析は研究全体のボトルネックとなりうる段階であり、特に極性分子や中分子に対して実用的な解析法は限られている。我々はVCD(赤外円二色性)を用いた各種分子の構造解析を達成してきた。本国際共同研究ではVCD分光法と相補的なROA(ラマン光学活性)を用いて、糖や核酸など各種分子の構造を水溶液中で解明する方法論の開発を目指す。 本研究開始当初は、オーストラリアのロイヤルメルボルン工科大学のグループが所有するROA装置を用いた国際共同研究を実施していたが、コロナウイルスによる影響で共同研究先の研究機関が長期間閉鎖され、ROA装置も故障してしまった。渡航制限が2022年3月に緩和されたことを受け、2022年5月からチェコの研究機関との共同研究を開始した。以前オーストラリアで測定したROAデータも全て再測定することとした。 2022年度は2度渡航し、国内で合成した各種のヌクレオシドならびに糖のROAを条件を変更しつつ測定し、概ね良好な実測スペクトルを得た。国内で計算した理論ROAスペクトルと実測スペクトルを比較したところ、一部の分子ではかなり良い一致を示したことから、これらの分子の水溶液中での詳細な構造決定に成功した。一方、理論・実測スペクトルの一致が悪い分子もあり、新たな計算法を実施する必要性が示唆された。 また重水素を有する糖についても国内で合成し、ROAを測定した。2022年度はグルコースのα体とβ体に特に着目し、これらの分子は弱いながらもC-D伸縮振動に由来するROAシグナルが2100 cm-1付近に示すとともに、そのシグナルパターンが糖の構造を反映するといった、重水素化分子のROAにおける新たな知見を見出した。 ROAの理論計算で得た知見をVCD計算にも適用し、各種分子のVCD計算に成功し、論文発表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究はコロナ以前の2019年に開始したものであり、オーストラリアのロイヤルメルボルン工科大学のグループと国際共同研究を実施していた。しかし、論文としてまとめるのに十分なデータが得られる前にコロナウイルスによる影響で共同研究先の研究機関が長期間閉鎖され、ROA装置も故障してしまった。2022年からチェコのグループと、新たなROA装置を用いた共同研究を開始したが、ROA装置の違いによるデータのばらつきを避けるために全てのサンプルを再度測定し直すなど、実質的には1年目の研究の繰り返しとなる研究内容が含まれている。一部の結果については論文投稿間近であるが、当初計画には及ばないため、上記の自己点検評価とした。
|
Strategy for Future Research Activity |
グルコース(重水素化されたグルコース含む)のROAスペクトルについては、実測スペクトルと予備的な理論スペクトルが良好な一致を示している。現在、チェコの共同研究者と密接に連絡を取り合いながら、さらなる理論計算を実施している。一部の分子については再度測定し、ここまでのデータを元に2023年度前期での物理化学系雑誌への論文発表を目指している。 ガラクトースやマンノースについても重水素化された分子をすでに入手しており、2023年度中に測定し、今後の論文発表を目指す。 ヌクレオシドの研究については、一部の分子について実測スペクトルと理論スペクトルの一致が悪く、さらなる計算の実施を検討中である。2023年度中の投稿を目指す。 またVCD研究についても、新たな理論計算法の実践によってより複雑な分子の構造解析(フッ素化分子など)を試みる。
|
Research Products
(7 results)