Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
増井 志津代 上智大学, 文学部, 教授 (80181642)
中野 勝郎 法政大学, 法学部, 教授 (70212090)
岡山 裕 慶應義塾大学, 法学部, 准教授 (70272408)
松原 宏之 横浜国立大学, 教育人間科学部, 准教授 (00334615)
平井 康大 成城大学, 社会イノベーション学部, 教授 (40251334)
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Research Abstract |
プロジェクト初年度の本年は,基本図書資料の購入を進めるかたわら,全体会議において参加者相互の知見を交換するとともに,来年度以降プロジェクトで招聘する海外研究者と,ボストン,ニューヨークにおいて研究打ち合わせを行った。このほか5回の研究会を主催し,9月29日にはアメリカ太平洋地域研究センターにおける公開シンポジウム『反米:その歴史と構造』を共催した。 本年の研究会を通して浮かび上がった問題の一っに,公共の空間と排除,暴力の問題があったことを記しておく。旧聞に属すことながら改めて指摘すれば,合衆国建国の理念的支柱の一つに古典的共和主義がある。ただその流れは19世紀転換期以降,個々人のイニシアティブに基づく富の集積をも「公共」の善とみなす,近代的共和主義,あるいは自由主義の伝統にとって換わられたとされる。その伝統が合衆国を長く貫いたからこそ,"ヤンキーの父"とされるベンジャミン・フランクリン像が人々の間に流布することにもなったと近年の歴史家は議論している。しかしそうした新たな「公共」が対象とする範囲は自ずと限られたものであり,アクターとしてよりは,スペクテーターとしての役割を甘受させられた移民や婦女子,奴隷,先住民を含む,別の言葉でいえば,「公共」の縁に存在する人が想定されて初めてその「公共」は意味を持つものでもあった。そうした自由主義的な思潮を縁取りした政治的,文化的排除と暴力の存在を含めた「公共」創出の議論が,18,19両世紀を跨ぐ形でどのように展開しうるのか,この後の課題として一つ浮かび上がっている。「公共」空間への参加を約束する文字や読書の社会史をより詳しく学ぶ必要がもっとあるかもしれない。その特権と人種や性の規範,プロテスタント信仰との関わりはまだ詳しく論じ尽くされていないのではないだろうか。そうした諸問題を念頭におきながら2008年度以降も研究を継続する。
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