2010 Fiscal Year Annual Research Report
公共文化の胎動:建国後の合衆国における植民地社会諸規範の継承と断絶に関する研究
Project/Area Number |
19202022
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
遠藤 泰生 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 教授 (50194048)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
増井 志津代 上智大学, 文学部, 教授 (80181642)
佐々木 弘通 東北大学, 法学部, 教授 (70257161)
松原 宏之 横浜国立大学, 教育人間科学部, 准教授 (00334615)
中野 勝郎 法政大学, 法学部, 教授 (70212090)
橋川 健竜 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 准教授 (30361405)
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Keywords | 大西洋世界 / プロラスタンティズム / 西部領土 / 共和主義 / 公共性 / 18世紀アメリカ / 感傷小説 |
Research Abstract |
最終年度となる本年は、成果のまとめを行う合同討議の機会を増やした。研究分担者はその討議をとおし、各自が分担する課題の位置づけを再考することができた。 本研究を進めていく中で研究分担者の注意を最も強く惹いた問題の一つは、領土の拡大と大量移民の流入を規定条件に建国後の国民構成が多元性を増すなか、植民地時代の社会諸規範のうちいかなる側面が継承され、いかなる側面が断絶されるに及んだかという問題であった。例えば政治規範に関して言えば、古典共和主義から近代共和主義への変遷において、徳や公共善などの言葉を継承しつつも、市場経済の成長に沿った個人利益の追求を是認する必要が建国期に起きた。経済活動における私益と社会全体の公益との調和をどうもたらすかは、建国期アメリカが公民の育成に際し説明に最も腐心した問題で、アンティベラムの文化全般にその所産を指摘することができる。例えば、プロテスタンティズムの聖書主義から生まれたプロテスタント・ヴァナキュラーの文化は、厳格な神学論の領域を超えた日常説教や文学の領域にも浸透し、公共の涵養こそが文芸の使命であると考えるような文学潮流すらも生み出すこととなった。この視点は「感傷小説」と呼ばれた文学全般のプロットを理解する上で不可欠である。領土の拡張に伴う公共性の意味の拡大も、英帝国全体を視野におさめた帝国経営の論理と西部開拓者の利益を最優先とする現場の論理との間で、継承と断絶のせめぎ合いが続いた。それが建国後の西部における空間秩序の形成に影響を与えた可能性が本研究では明らかになっている。海外研究協力者を交えた公開研究セミナーには、英国史研究者らの参加が本年目立った。「公共」の概念を導入することで18世紀環大西洋世界を文脈にアメリカ近代史像の見直しを図る本研究の企図は、他国史家にも十分認められたといえよう。以上全ての成果は論文集として刊行する予定である。
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Research Products
(16 results)