Research Abstract |
我々は,「魂の植民地化」とは何か,という問題を幅広い観点から検討した。その結果,「魂の植民地化とは,自らの視点を失い,他者の視点で自分自身を考えることであり,自らの視点を取り戻すことが,魂の脱植民地化である。」という一応の定義に到達した。この論点は,精神分析学,分析心理学などの分野で議論されてきた,意識と無意識との乖離の問題,さらには,哲学の分野で議論されたきた自己欺瞞という概念と密接に関連することが明らかとなった。また,歴史学との関連では,香港人,台湾人の心性をこの観点から考察し,共通の側面を取り出すことができた。更に,数理科学,微生物学などの全く異なる分野での成果を踏まえ,「創発とそれを阻害するもの」という観点から理論的考察を深め,こういった観点が,『論語』の思想と結びついていることを確認した。 この問題は,人間の自由とはなにか,という問いと直結している。近代においては,「選択の自由」こそが自由である,という臆断が強い影響力を持っている。たとえば法律体系は,選択の自由と合理的判断とを行使しうる者に,その行為の結果への責任を求める,という前提の上に構成されている。また,標準的経済理論もまたこの両者のうえに構成される。ところが,スピノザやエーリッヒ,フロムらの指摘するように,自分自身の本来的ダイナミクスに従って行為することを「自由」とすれば,「必然」に従うことが「自由」である,ということになり,選択は自由や責任とは無関係となる。それどころか,本来のダイナミクスを否定されつつ,意味のない選択肢を大量に与えられることは,魂の植民地化に帰結する典型的な条件であることが明らかとなった。この呪縛された状況から抜け出す上で,網野善彦の「無縁」の概念が重要な意義を持つと考えられる。 具体的な活動内容は以下のとおりである。 5月2日大阪外国語大学にて研究会開催「ハラスメント理論について」 5月18日〜20日滋賀県伊香郡,西浅井町にて研究会および現地調査 5月23日学士会館分館にて論語研究会と協同で研究会開催。「仁とサイバネティックス」 6月23日龍谷大学アフラシア平和開発研究センターと協同で研究会開催。「紛争解決に関する理論研究:展望」 6月30日国際高等研究所(けいはんな学研都市)「複雑系科学の再出発」研究会と協同で研究会開催。 7月18日大阪外国語大学にて研究会開催「香港人の心性」 7月24日JICA大阪にて研究会開催「三光作戦の村」, 11月5日〜6日香港大学にて研究会開催「Decolohisation of the Soul」 12月19日大日本印刷と協同で,同社五反田ビルにて研究会開催。「無縁と呪縛」このほか,中国,インド,香港,フランスで現地調査を行い,朝鮮,台湾,香港,イギリスの研究者を日本に招いて議論した。
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