2008 Fiscal Year Annual Research Report
魂の脱植民地化〜日本とその周辺諸国のポストコロニアル状況を解消するための歴史学〜
Project/Area Number |
19320094
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
安冨 歩 The University of Tokyo, 東洋文化研究所, 教授 (20239768)
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Keywords | 脱植民地化 / ハラスメント / 魂 / 無縁 / 内モンゴル / 中国 / ブータン / 香港 |
Research Abstract |
最終年度の最大の成果は、東京大学東洋文化研究所の発行す『東洋文化』(89号)を当研究会の特集号として、12本め論文を発表することができたことである。この論文集の締め切りは9月末であったので、19年度はじめからわずか一年半でこれだけのオリジナルな論文を集められたことになる。ここではこの論文集の内容を説明することで、実績報告とする(論文タイトルは成果目録を参照)。この論文集で特筆すペきは、研究対象と自分自身とを切り離さず、対象への問いが自らに向かうことの意味を、明示的に取り込むことに成功した点である。世界を観測する自分自身が何らかの無意識のゆがみを持っていた場合、世界の像はゆがんでしまう。この問題を近代学問は、手続きや概念操作の客観性によって保障しようとしてきた。しかし、アリス・ミラーらの明らかにしたよ引こ、多くの学者の研究は、無意識のゆがみを直接に反映していることが多い。そこで我々は、対象への問いが、自らへの問いとして跳ね返ってくることは、学問という営みにとって不可避のことである、と前提した上で、如何に客観性を確保するかを考えた。その結果、自らに向かってくる問いを受け止め、自分自身の無意識のゆがみの理由を考え、そこから離脱するという努力を続けることが有力な方法であると思い当たった。論文集の第一部(深尾論文、千葉論文、等々力論文)はそれを意識的に追求し、自分自身を明示的に研究対象に含めるというアプローチにより、魂の脱植民地化の過程を考察するものとなった。このように問題を設定した上で第二部は、魂を植民地化する過程についての理論を提出した。本修論文はべイトソンのダブルノくインド,理論の問題点を指摘し、サイバネティックな観点を徹底させることで、ハラスメント理論を提出した。ヴァイス論文は、colonizationという言葉が「耕す」という積極的意味を持つことを示し、脱植民地化過程は「本来の状態への回帰」ではなく、colonisationによって得られたものを吟味し、不要なものを捨て、自分に役立つものを自分のものとする aufheben の過程であることを示した。第三部で安冨論文は、近代学問の前提のーつとなっている「共通の communis」という概念を考察し、この概念そのものが、魂を植民地化する役割を果たしていることを示し、こから自由な思考をもたらし得る概念として、網野善彦の提唱した「無縁」の重要性を示した。内田論文、輿那覇論文は、網野の無縁論が如何にして出現し、それが如何にして誤読されっづけたか、を詳細な文献的証拠に基づいて提示した。第四部では開発・環境問題を扱った。李論文は中国社会の自己植民地化状態とそこからの離脱の方策を示した。Dixon Wongは香港に進出した日本企業従業員の植民地的心性をフィールドワークに基づいて解明した。富田論文は故遠山正瑛氏によって始められた内モンゴルの植林活動が、如何に自己疎外を引き起こし、無意味化していったかを実証した。宮本論文は、ブータン王国が外交・国防権と自立した国民経済を欠いた状態でありながら、依存を通じて自立を達成していった戦略をとっていたことを示した。
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Research Products
(12 results)