Research Abstract |
当該年度は,韓国社会における移動と生活実践の関係について,統計資料の整理と分析を行うとともに,都市から地方への移住者の実態調査と,地方住民の生活・宗教実践についての資料収集を行った。(1)1930年朝鮮国勢調査(全羅北道編)と1960〜90年の全羅北道南原郡の人口統計をもとに,農村/山村/市街地の三っの類型を設定し,生態環境や都市化との相関性を分析した結果,以下のことが明らかになった:(1)1920年代までには,地方社会でも,行政拠点や港湾・鉄道分岐点を中心に,人口集中と市街地の形成,ならびに職業の多様化が始まっていた。(2)水田の乏しい山村では,農業従事者でも移動性が高く,また手工業従事者の場合も,原材料や生産手段を求めた移動が見られた。(3)農村でも,生業基盤の安定度は必ずしも高くはなく,特に小作農や農業労働者の場合,移動性が高かった。(2)全羅北道南原市山内面一帯に近年定着した都市からの移住者(「帰農者」)の調査から,以下の展望を得た:(1)帰農者の集中と定着度の高さは,帰農専門学校,NPO諸団体,ならびに両者を物心両面でバックアップする仏教寺院の存在によるところが大きい。(2)諸団体の活動家を中心に,代案的な生活共同体の創生運動が展開されているが,それへの関与の仕方は,「根っこ」のメンバー/活動家/一般帰農者で顕著な違いが見られる。また帰農者の間にも,世帯単位で定着した者/単身で活動している者/帰農準備中の者で,生活の組み立て方に大きな違いが見られる。(3)済州島の村落社会を対象とする資料収集から,観光・工業開発の進むなかで,農村住民の間にも生活の組み立て方の多様化を見て取ることができ,それが宗教活動にも影響を及ぼしていることが明らかになった。
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