2010 Fiscal Year Annual Research Report
表現型可塑性の進化生態学的研究:群集構造からとらえる
Project/Area Number |
19370005
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
西村 欣也 北海道大学, 大学院・水産科学研究院, 准教授 (30222186)
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Keywords | 相対成長 / 表現型 / 可塑性 / 共食い / 攻撃 / 防御 |
Research Abstract |
個体の遺伝子セットが環境に反応して特定の表現型を発現させる表現型発現機構を、「(遺伝子の)反応規範」という。恒常性や可塑性は、遺伝子の環境に対する反応規範の両極端である。ある環境要素に対する反応規範は、個体の生理的状態や発生段階、社会的地位といった他の環境要素によって修飾されることが知られている。 エゾサンショウウオは孵化後、同種幼生やエゾアカガエルのオタマジャクシの込み合いで、集団中に数%の割合で大口型個体を生じさせる。大口形態は丸呑みで大きな餌を捕食する能力が高く、同種幼生やオタマジャクシを捕食する。集団中に大口型と非大口型の2型の個体を生じさせる仕組みは、個体の遺伝子セットが持つ「発生反応規範」によるものと考えられる。一腹の卵塊から、あるいは同時期に産卵された卵塊から孵化した幼生の間では、成長の偶然による揺らぎで体サイズの大小関係が生じ、その中の成長でリードした僅かな個体が大口型の形態へと発生軌道を分岐させることがかつての研究によって判明していた。このことは、個体発生における条件依存的(自分と周りの個体のサイズ状況)遺伝子の反応規範として解釈できる。 反応規範が個体の発生に先立つ、あるいは反応規範が開発されるよりもずっと前の発生段階の影響を受けることがある。エゾサンショウウオは親個体の間で卵サイズに大きなバラツキが見られる。異なる大きさの卵の間で、大口型-非大口型の形態分岐を長じさせる反応規範が異なることを実験によって発見した。大卵からの幼生は小卵からの幼生に比べて、大口型への発生傾向を持っていた。その傾向は、個体発生を進行させる環境条件に応じて、知られている反応規範に即して調整された。すなわち、大口型誘発環境では、大口型への相対成長が促進され、非誘発環境では、非大口型への相対成長が促進された。
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