Research Abstract |
本年度は日本,中国の農村を対象として,農村共有資源の保全・管理に関する実証分析を行った。市場機構の作用が弱く,政府介入の余地も少ない共同体では,それを構成するメンバーの戦略的な行動が共有資源管理のパフォーマンスを規定する。これはまさにゲーム論が想定する世界にほかならない。実際に本研究の考察は,進化ゲーム理論が集団の行動原理を理解する上できわめて有用な概念であり,そこから導出された仮説が共有地問題の争点と深く関係していることを示唆している。具体的には,利用者の間で協調が成立し,共有資源が良好な状態に保全・管理される確率は,集落内に非農業就業機会が乏しく,換地を頻繁に行い,農家間の所得格差が小さく,資源の制約が適度に深刻で,様々な社会的交換ゲーム(共同作業の機会)が存在する集落で高い。いいかえれば,これらの条件を満たすコミュニティでは相互協調の機運が醸成されやすく,そうではない集落では「囚人のジレンマ」が発生し,共有資源の保全・管理は悲劇的な結末を迎える可能性が高い。 計量分析の結果は上記の仮説をほぼ肯定するものであった.水不足が深刻で,農民間の資産格差が大きく,所得均等に配慮していない集落ほど農家の出役頻度は低い.管理労働に対する農民参加は共同作業を行う機会が多い集落ほど積極的であるが,これは「ただ乗り」が別の機会で処罰されるというルールの存在を示唆する。出役と集落規模については,「ただ乗り」する者の排除不可能性とモニタリングにおける規模の経済を理由として逆U字型の関係が,先行研究によって指摘されているが,本研究の結果はそれと矛盾しない。集落内の非農業就業機会,民族の異質性は出役頻度を低下させるが,後者は統計的に有意ではない。
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