Research Abstract |
本研究は,無症状の病態や現代医学的には健康と診断される有症状患者など,東洋医学的概念で未病と呼ばれる半病的状態に対し,科学的な診断マーカを提案するとともに,その治療に関する概念を確立することを究極的目的として実施している.本年度は,まず細胞膜表面のムチンMUC1が自然免疫系の調節因子であり,種々の炎症性疾患の患者では血清中に検出されること,さらに多くの人で本分子に対する自己抗体があることなどに注目し,MUC1または抗MUC1抗体が新規未病マーカーとなる可能性を考え,まず,抗MUC1抗体の細胞生物学的作用を調べた.その結果,抗MUC1抗体は種々の細胞で膜上のMUC1のエンドサイトーシスを誘発することが分かった.すなわち,抗MUC1抗体はMUC1による自然免疫系の過剰反応の抑制を消失させ,炎症反応を充進する可能性が考えられた.来年度以降,本仮説について検証する予定である.また,本作用はPI3 kinase依存性のシグナルを介していると推定され,MUC1-抗MUC1抗体複合体がある種の受容体・リガンドの関係にあると推定された.一方,種々の漢方薬に含有される甘草の主成分であるグリチルリチンの結合部位としてHMGB1を同定した.このHMGB1は,近年,種々の炎症性疾患時に細胞外へ漏出し,サイトカイン様の作用を持つことが知られている.本分子についても上記のMUC1と同様に未病マーカーとなる可能性が推定され,来年度以降さらに追求する予定である.
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