Research Abstract |
本研究の目的は,分子疫学データの特性を十分に理解した上で,遺伝疫学因子と生活環境因子が,がんなどの疾病リスクにどのように影響を与えるかを評価する統計的手法を詳しく検討することである。初年度の研究では,がんの分子疫学データの特徴を調べ,曝露の寄与率を取り入れた因果推論モデルを構築した。当該年度は,研究期間の最終年度にあたるため,連携研究者の中地と藤井と共同で,(1)分子疫学データの特徴のまとめ,(2)構築したモデルの検証と改良を重点的に行った。(1)に関して,原爆被爆者とその子供たちの分子疫学研究のサーベイを行い特徴をまとめた(Nakachi, et al.(2008),Suyama, et al.(2008))。次に,(2)に関して,順序が付いたカテゴリカルな因子の交互作用を推定できるように,新たに構築した因果推論モデルに拡張を加え,曝露の推定された寄与率のばらっきを考慮した感度分析を提案手法に取りいれた(Izumi, et al.(2008a))。さらに,単純な設定下において,尤度比検定の検出力を推定する手法を検討した(Izumi, et al.(2008b))。そして,実データに則した数値実験を行った結果,提案手法は,曝露群の症例を曝露に起因したものと自然発生により生じたものとに確率的に区別し,曝露由来の遺伝的識別マーカの特定を目的とする分子疫学研究において,汎用性が高いことが分かった。統計処理ソフトウェアRにおいてアプリケーションを作成し,研究成果の公開サイトを準備した。その他,当該研究課題に間接的に関係するものとして,疾病の空間・時間集積性を取り扱うモデルや潜在変数を含んだ構造方程式モデルに関する成果も研究発表欄にリストしている。
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