Research Abstract |
世界自然遺産であり原生自然が多い知床半島の諸河川において,サケ科イワナ属魚類オショロコマを対象に,温度生息場所環境を劣化させる主な要因が気候変動と砂防・治山ダム群にあるとする予測の元で影響予測に関する調査を行ってきた.知床は野生生物の宝庫であり,オショロコマは猛禽類の餌として利用されることからキーストーン種として位置づけることができる.しかし,同半島の49水系に357基のダムが確認されている一方で,気候変動の影響によると考えられる気温の上昇も認められており,今後河川水温の上昇を引き起こすことが懸念されている. そこで,長期にわたり環境撹乱がオショロコマに及ぼす影響を明らかにし,保全に資することを長期目標に据え,半島両岸の河川群で本種の個体数密度を定量化し,各河川の夏季水温の観測,個体数密度との関係について検討した. 研究の結果,以下のことが明らかになった.1)仮に温暖化がすべての河川にほぼ均等に昇温を引き起こすとすれば,ダムが多いほど昇温しやすい.2)ダムが多い河川でオショロコマは少ない.また,若齢年級群が欠落しやすい.3)オショロコマは西岸河川で減少傾向にあり,温度生息環境が悪化したためと推測される(ただし,餌,釣獲圧等についても要検討である).以上のことから,ダム建設に起因する昇温ストレスに温暖化による昇温が拍車をかけており,今後,ダムによる温暖化の詳細なメカニズムおよび昇温ストレス以外の要因(移動阻害,河床材料など)についても検討を続ける.
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