2009 Fiscal Year Annual Research Report
現象学における「理性」概念の変容--フッサールとレヴィナスに即して
Project/Area Number |
19520008
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
田口 茂 Yamagata University, 地域教育文化学部, 准教授 (50287950)
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Keywords | 哲学 / 現象学 / フッサール / レヴィナス / 理性 / 倫理 / 明証 / 主体性 |
Research Abstract |
21年度は、フッサールが「明証論」的根拠にもとづいていかに「理性」概念を改鋳したのかを、さらにより具体的に明示することを試みた。この観点から、第一に「経験」概念の現象学的な拡張と豊饒化を論じた。現象学にとって「経験」とは、根本的には、閉じた意識の中に外界の断片を取り込んで処理することではなく、主体が異質なもの・異他的なものへと避けようもなく曝されてしまっていることを意味する。このような意味転換を可能にしているのは、「必当然的明証」概念の深まりである。第二に、明証論のこうした方向への展開は、「主体性」概念の現象学的捉え直しを迫っている。分断された個別的自我の概念に先立つが、普遍的な超主体でもない主体性を、フッサールは「原自我」というタームで語っている。そして、第三に、こうした原主体性における異他者の経験こそ、明証論にもとづく現象学的「経験」論から帰結するものであり、そのように捉えるならば、明証論的根拠からの恣意的な跳躍を控えつつ、レヴィナス的な意味での「倫理」について思考する道が拓かれてくる。これは、フッサール的「理性」概念に含まれる「倫理的」含意を明らかにすると同時に、レヴィナス的「倫理」概念の現象学的解釈への通路を指し示すことにもなるだろう。第四に、「原自我」概念は「現象学する自我」、すなわち現に現象学を遂行している、哲学的に語る「私自身」への問いと密接に結びついているが、この方向において、レヴィナスの論じる「言うこと」と「言われたこと」の問題系が、現象学的に解釈されうる。哲学的に「語る」ということ自体が、絶えず「語られたこと」の外にいる「私」と「他者」とを暗黙の裡に指し示しているのであり、このことが哲学的に「語られたこと」に先立つ倫理性の次元をも指し示しているのである。
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Research Products
(10 results)