2007 Fiscal Year Annual Research Report
インド・チベット仏教の「心の宗教」としての伝統とその現代的意義に関する研究
Project/Area Number |
19520039
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Research Institution | The Eastern Institute |
Principal Investigator |
吉村 均 The Eastern Institute, 研究員 (20280654)
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Keywords | ラムリム / ナーガールジュナ / アティーシャ / 和辻哲郎 / 倫理思想史 / 仏教学 / 宗教学 / インド:チベット:日本 |
Research Abstract |
古代王国崩壊後の混乱期にチベットに招かれたアティーシャが示した菩提道次第(ラムリム)の教えは、チベット仏教の諸宗派の学習と実践の基本となっている。アティーシャの『菩堤道灯論』を最も有名なゲルク派の開祖ツォンカパの『菩提道次第・大論』と比較すると、一般的には学者的という印象があるツォンカパの著書が実践階梯として書かれているのに対し、アティーシャの著書は釈尊の教えを機根の異なる衆生への対機説法として捉え、体系化する性格が強いことがわかった。そこでインド仏教に遡って検討し、一般にラムリムの源流と考えられている(広大行の流れの)『現観荘厳論』や(甚深なる見解の流れの)『宝行王正論』だけでなく、有部を批判したナーガールジュナ『六十頌如理論』に、釈尊の言葉(阿含)をどう理解し体系化したかが示されていることを確認した。 このようなインド・チベットの伝統に対して、日本仏教は一気に核心に到達しようとする頓悟的傾向が強い。これは平安時代の最澄にはじまり、道元・親鸞らのいわゆる鎌倉新仏教として展開し、さらに明治にはいり、西洋のキリスト教やそこから生まれた哲学に比するものとして仏教思想を捉えることによって強調された。しかし、それでは苦しみを滅し幸せを得るための実践という仏教の基本性格が見失われてしまう。この点について、近代仏教学の確立に大きな役割を果たしたとされる和辻哲郎のナーガールジュナ解釈とナーガールジュナ自身の論とのズレという形で指摘した。 以上のような研究においては、文献研究だけでなく、生きた伝統を知ることが欠かせない。今年度はインドでおこなわれたダライ・ラマ法王の『現観荘厳論』ハリバドラ註とソナム・タクパ『般若総義』、アティーシャの伝統を伝えるカダム派の六典籍のうちの二つである『ウダーナ・ヴァルガ』『ジャータカ・マーラー』の講伝に参加した。
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Research Products
(2 results)