2008 Fiscal Year Annual Research Report
インド・チベット仏教の「心の宗教」としての伝統とその現代的意義に関する研究
Project/Area Number |
19520039
|
Research Institution | The Eastern Institute |
Principal Investigator |
吉村 均 The Eastern Institute, 研究員 (20280654)
|
Keywords | ラムリム / ロジョン / ナーガールジュナ / 折口信夫 / 倫理思想史 / 仏教学 / 宗教学 / インド:チベット:日本 |
Research Abstract |
本年度は昨年度に引き続き、チベット仏教の各宗派の実践の基盤となっているラムリム(菩提道次第)の仏教理解が、インドのナーガールジュナ(龍樹)の経典理解に基づくものであるという見通しのもとに研究をおこなった。ナーガールジュナは、阿含経典で主として在家の信者に説かれている悪をなさないことにより人天に生まれる教えと、出家の信者に説かれている輪廻からの解脱を目指す教えのどちらも釈尊自身の立場とは異なるとして、ウダーナ(自説語)などに断片的に説かれている有(実体論)と無(虚無論)の双方を離れた境地こそが仏陀自身の境地であると説いている。仏陀の境地に至る実践とされた六波羅蜜を、ナーガールジュナは福徳と智慧の実践に要約し、無上正等覚者である仏陀の境地の因となるのは有限な福徳や知識ではありえず、一切衆生に対する善と空性を理解するという無限の福徳と智慧であると説いた。そのような福徳の実践は実体視に捉われた凡夫には困難であり、チベットではインドのシャーンティデーヴァ『入菩提行論』を手がかりに、まずはそれを実践しうる心を養うことが必要であるとし、そのための秘訣として実践されたのが、呼吸に合わせて他の苦しみを吸い自己の幸せを与えると瞑想するトンレンと無我の瞑想を核とするロジョン(心の訓練法)であることを明らかにした。 日本仏教をチベットの伝統と対比すると、民衆向けにやさしく仏教を説いたとされてきた道元や親鸞の教えが、上士への教えに相当するきわめて高度なもので、一気にその境地を目指す頓悟的な教えであることが見えてくる。そのような形でも仏教が維持され得た要因として、在来の神信仰が下士への教えだけでなく、輪廻からの解脱を目指す中士への教えの役割をも果たしていたのではないかという見通しを立て、折口信夫『死者の書』を手がかりに、日本の神仏習合の展開について論じた。
|
Research Products
(2 results)