2010 Fiscal Year Annual Research Report
インド・チベット仏教の「心の宗教」としての伝統とその現代的意義に関する研究
Project/Area Number |
19520039
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Research Institution | The Eastern Institute |
Principal Investigator |
吉村 均 財団法人東方研究会, 研究員 (20280654)
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Keywords | 心の訓練法 / 中論 / 入菩薩行論 / 般若心経 / 大乗仏教 / 倫理思想 / 仏教学 / インド:チベット:日本 |
Research Abstract |
本研究では、インドからチベットに伝わる仏教理解が、基本的にナーガールジュナ(龍樹)の経典解釈と体系化に基づくことを明らかにし、その現代的意義について論じた。ナーガールジュナは阿含経典に基づく部派の仏教理解に対して大乗経典に基づく新たな理解を主張したと思われがちだが、釈尊の発見した苦しみの真の原因とその解決法という観点から、部派の解釈では苦しみの解放に至らないと批判したのであり(『六十頌如理論』〉、正統性について議論のあった大乗経典についても、その苦しみの解決法と矛盾せず、阿含経典では明確に説かれていない点を補完するものとして、仏説と認められるとした(『宝行王正論』)。主著とされる『中論』も、普遍的真理として空を主張したものではなく、素質ある者を苦しみの真の原因である実体視から解放するための導きの言葉と理解すべきものである(チャンドラキールティの解釈。『入中論』『明句論』)。 本年度はこのような観点から、特にチベットに伝えられた心の訓練法(ロジョン)を取り上げ、主要テキストとその内容を紹介したうえで、その理論的背景をインドの『中論』『入菩薩行論』に探り、チベット仏教の指導者であるダライ・ラマ14世が継続的におこなっている科学者との対話(心と生命会議)から瞑想の効果の科学的検証について紹介し、心のケアの方法としての有効性と現代社会において実践する際の注意点を指摘した。 日本仏教の説明は明治以降の近代化の中で伝統とは大きく異なったものとなっているが、このような苦しみの解決法としての観点から読み直すことが可能で、見通しについてはすでに『神と仏の倫理思想 日本仏教を読み直す』として刊行しているが(2009年)、本年度はチベットの『般若心経』解釈を主な題材に、チベットの経典理解における密教や浄土信仰の位置づけについて論じ、道元や親鶯の教えについて読み直しをおこなった。
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Research Products
(8 results)