2008 Fiscal Year Annual Research Report
ニコラ・プッサンの顧客獲得戦略-ラファエッロと古代美術の同化をめぐって
Project/Area Number |
19520109
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
望月 典子 Keio University, 文学部, 講師 (40449020)
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Keywords | 美術史 / 17世紀フランス / ニコラ・プッサン / 古典主義 / 古代美術 / ラファエッロ |
Research Abstract |
17世紀フランス古典主義美術を代表する画家ニコラ・プッサンの作品制作において、ラファエッロと古代美術が果たした役割の重要性については常に指摘されてきたが、画家が両者を同化した理由は、その内発的な動機にのみ帰される傾向にあった。それに対して、プッサンの個人様式の展開と画家を取り巻く状況を比較すると、画家の資質の問題に留まらず、フランス人の顧客を新たに獲得するため、戦略として両者を意識的に採用した可能性が伺える。それを検証することが本研究の目的であり、昨年度および本年度の補足調査により、その可能性がほぼ裏付けられた。まず、1630年代半ばから40年代を中心に、フランスにおける古代美術とラファエッロの受容のあり方について、一次資料から再構成を試み、ラファエッロと古代美術が、少なくともパリの美術行政とプッサンの顧客となり得る人物たちの間では、理想の美術としての確固たる地位を獲得しつつあったことを確認した。さらに1630年代後半に画家がローマで制作し、パリに送った2作品-それらは母国で画家のエージェントの役割を果たしていたジャック・ステラの元に送られた-について、現所蔵美術館(ベルリン国立絵画館及びルーアン美術館)で作品調査を行い、画家は、作品の主題に相応しい「手法」と有機的に結びつけながら、それぞれラファエッロと古代美術を巧みに取り入れたことを明らかにした。それは、一面では、フランスの新規顧客層の潜在的需要に応えるためであり、そうした目論見がある程度成功したことは、この時期を境に画家の主要顧客がイタリア人からフランス人へ移行したこと、1640年代はじめにルイ13世から破格の待遇で招聘された事実によって裏付けられる。さらに、王立絵画彫刻アカデミーを中心とする17世紀後半のフランス美術の主要な流れは、ラファエッロと古代美術を規範とする「古典主義」美術となり、その模範にプッサンが加わっていくのである。これらの成果については、美術史学会全国大会で口頭発表すると共に、学会誌の論文としてまとめ成果を報告した。
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Research Products
(3 results)