2009 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19520140
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
菅 聡子 Ochanomizu University, 大学院・人間文化創成科学研究科, 教授 (70224871)
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Keywords | 感傷 / ベストセラー / 女性作家 / 国民化 / 皇民化教育 / 女医 / 戦時下 |
Research Abstract |
最終年度である本年は、研究課題の中心的問題意識であった「感傷の機制」をもっとも体現するものとして、吉屋信子『女の教室』を分析対象とし、女性の国民化がどのような言語表現によってなされるのか、具体的に考察した。加えて、本文の異同、新聞連載時のメディアミックス状況などを調査し当該テクストの同時代的受容の様相を明らかにした。その結果、一方でフェミニストであった吉屋信子において、女性同士の連帯への無償の信頼が、それゆえに、帝国の大東亜共栄圏思想とたやすく接続し、国家との共犯関係を結ぶという論理が明らかになり、帝国のフェミニズムのありようの一端を前景化することができた。同時に、本テクストが作者が参照した小川正子『小島の春』と同様に、戦時下におけるハンセン病政策に同調するものであることを論じ、本テクストの持つ差別的側面を指摘した。これらの考察は、「<女の友情>のゆくえ-吉屋信子『女の教室』における皇民化教育-」として論文化した。 吉屋信子『女の教室』については、その人気が知られる一方で、その内容について本格的に論じたものは拙稿以前には存在しない。今回の調査・分析・考察を通じ、女性読者に絶大な人気を誇った女性作家が、その女性同士の絆への信頼ゆえに、国家と共犯関係を結ぶことを論理的に明確にしえたことは、女性表現研究に寄与するところが大きいと考える。同時に、今後の女性表現研究に、新たな問題領域をひらき得たと考える。
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Research Products
(1 results)