2007 Fiscal Year Annual Research Report
シェイクスピアの近代における受容に関する表象文化論的考察
Project/Area Number |
19520198
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
高田 康成 The University of Tokyo, 大学院・総合文化研究科, 教授 (10116056)
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Keywords | 世俗化 / 名声 / 超越 / 歴史 / ナショナリズム / 偶然 / キリスト教 / 終焉 |
Research Abstract |
「世俗化・合理化」という主題軸に沿って研究を進めた。 (1)シェイクスピアに関しては、この主題に妥当すると考えられる『間違いの喜劇』、『恋の骨折り損』、『尺には尺を』、『ヘンリー四世』の4作品を主な対象として、「世俗的時間」、「名誉・名声」、「非神話化」、「目的・終わり」といったテーマを中心に読解を試みた。『間違いの喜劇』では、「1」あるいは「3」といういわば神聖を象徴する数(一神教の神と三位一体論)とは対照的に、「2」あるいは「4」という偶数の展開によって偶然が支配する「世俗的時空」を構成していることを解明し、『恋の骨折り損』では、「名誉・名声」という世俗的な価値基準の限界が問題になっていることを明らかにした。前者では、新約聖書への言及により示唆されるように、世俗的時空は超越的な世界の回帰というかたちで、それに回収されてしまうが、後者の場合には、超越的な枠組みの代りに、「死」という世俗における超越的限界の導入によって閉じられている、と分析した。 (2)「近代」の学問的言説に関する考察については、主題軸である「世俗化・合理化」のひとつのヴァージョンと思われる「ナショナリズム」について考察を進め、標準理論とされるベネディクト・アンダーソンの「ナショナリズム」論の批判を行ない、その西欧キリスト教起源の特性について確認するとともに、それ以外の宗教文化的素地の伝統のもとでの理論的問題点を確認した。たとえば、我が国の文化あるいはイスラム教的文化を素地とする伝統においては、「超越」性の特性が質量共に異なるため、理論的不適合が生じる。 (3)シェイクスピアの異文化受容の問題に関しては、主に「歴史」概念に関する差異を見極めるため、西欧の「歴史の終焉」論のラディカルな形態とも言うべきコジェーヴ研究者を招聘し議論を交わすとともに、その分野での最新の知見を得たが、「歴史」に関する彼我の差について、改めてその大きさを確認した。
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Research Products
(5 results)