2009 Fiscal Year Annual Research Report
シェイクスピアの近代における受容に関する表象文化論的考察
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19520198
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
高田 康成 The University of Tokyo, 大学院・総合文化研究科, 教授 (10116056)
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Keywords | シェイクスピア / 近代 / 歴史 / 政体 / 主体 / 自然 / 再生 / 超越 |
Research Abstract |
本年度の主題軸は「差異・外部」であり、シェイクスピアの作品としては『コリオレイナス』と『オセロ』を主な分析対象として考察を進め、「主体と言説」、「反復と再生」、「肉体と超越」、といったテーマを中心に読解を試みた。「近代」に関する学問的言説については、特にヘーゲルの歴史哲学を歴史の終焉として読み説いたアレクザンドル・コジェーヴについて専門家の知識供与を得た。「近代」の問題系が、特定の理念(たとえば「自由」「平等」「進歩」)との関係における歴史的展開であるとするならば、そのような弁証法的展開における矛盾と軋轢を『オセロ』は示す。自由な都市国家ヴェネチアにおいても、人種・民族を超える愛と結婚の実現は不可能であった。あるいはまた、ローマという政体の再生における「徳力」と「自然」の根本的な矛盾を『コリオレイナス』は雄弁に物語る。政体を維持するには「徳力」(コリオレイナス)が不可欠であるが、もしその「徳力」が基盤である母体(民衆という自然)を無視するならば、全てが崩壊せざるを得ない。政体は、その基盤が自然であることを再認識しなければならないが、同時に政体は単なる自然ではなく歴史的展開であるからには、自然を超える原理が認識されなければならない。すなわち自然的再生という内的時間(テンポあるいはリズム)ではなく、歴史的完成(エンド)へ向けての進展という外的(超越的)時間の契機が存在しなければならない。コリオレイナスの悲劇は、内的時間の反省的な認識が薄弱なうえに、後者の外的契機の超越性が十分でなかったことによる。ところで、外的契機の超越性(すなわち「差異・外部」の典型例)ということになれば、ユダヤ・キリスト教の神ほど超越的なものはない。この問題を明確化するために、本研究では、イスラーム圏におけるシェイクスピア受容について、その専門家を招いて討議を行い、成果を挙げた。
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Research Products
(5 results)