2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19520214
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
奥田 敏広 京都大学, 人間・環境学研究科, 教授 (60194495)
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Keywords | 中世伝説 / 聖人 / ゴットフリート・ケラー / コーゼガルテン / 近代リアリズム / ワーグナー / 奇跡 / 悪魔 |
Research Abstract |
19世紀にスイスのチューリヒを拠点に活動したゴットフリート・ケラーは、近代リアリズムを代表する作家の一人であるが、伝統的な聖人伝説を典拠とした小説も書いている。コーゼガルテンの『伝説集』に基づく『七つの伝説』である。 なるほどこの小説は、聖人伝説に基づきながらも、その彼岸志向と官能的喜びの蔑視を「正反対の方向」に、すなわち現世賛歌と地上の肉体的喜びを謳歌する、いわば換骨奪胎した近代的作品であるという評価が一般的である。しかし私は、典拠となっていながら、実際には詳しい比較検討が行われることのあまりなかったコーゼガルテンの『伝説集』をケラーの小説と綿密に比較して考察することによって、後者が伝統的な聖人伝説の要素、たとえば「天国と地獄」、「奇跡」と「悪魔」などを受け継ぎ、保持している側面も持つことを明らかにした。つまり、ケラーの近代リアリズムは、単調で陰鬱な中世伝説の世界から、多彩で生き生きした世界を切り開いたが、しかし、その現世志向と理性の崇拝は、「奇跡」や「悪魔」を迷信として安易に排除するものではなく、「二重の反語」によってそれらを批判的に取り入れるものだったのである。 なお、今年度は本研究「タンホイザー伝説と近・現代ドイツ文学」の最終年にあたり、上述したケラーに関する考察を加えて、研究の集大成として『ワーグナーと恋する聖女たち』(以下の研究成果参照)をまとめ上げた。ワーグナーを始めとする近代芸術家たちにとって、中世伝説とその世界が、理性による分析にもかかわらず、なお汲めども尽きぬ想像力の源泉であったことを具体的に示すことができたと自負している。
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Research Products
(1 results)