2008 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19520215
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
高橋 義人 Kyoto University, 大学院・人間・環境学研究科, 教授 (70051852)
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Keywords | ルネサンス / ゲーテ / レオナルド・ダヴィンチ / 錬金術 / ニュートン / カッシーラー / F・ベーコン / ミクロコスモス |
Research Abstract |
ゲーテ的人文主義の源をなすイタリア・ルネサンスは、人間の感性と理性が大幅に解放された時代だった。感性はすぐれた芸術作品を、理性は近代科学を生み出した。その結果、やがて両者は分離し、今日見られるような文系と理系という二つの知的系譜に世界は分裂していった。しかし感性と理性が統合された「全体的人間」を目指す動きもまた存在した。たとえばフィチーノはそれを哲学の世界で目指したし、レオナルド・ダヴィンチはそれを絵画の上で具体的に実現してみせた。カッシーラーによれば、レオナルドの方法論の根柢にあるのは「精密な感性的想像力」であり、この点においてレオナルドを受け継いだのはゲーテだった。他方、レオナルドとは別に感性と理性の統一を目指す運動もあった。それは、ルネサンスに誕生した魔術的・錬金術的な運動だった。レオナルドと錬金術師はともにミクロコスモスとマクロコスモスのアナロジーを信じてはいたが、しかしレオナルドが、自然は完全には探究しがたく、人間に太陽は決してつくれないと信じていたのに対して、錬金術師たちは、太陽の生命力(プリマ・マテリア)を抽出しようと無駄な努力を重ねた。近代科学の祖と言われるニュートンも、こうした時代背景の下で錬金術の研究に打ち込んだ一人である。しかし「精密な感性的想像力」に欠けていたニュートンは「全体的人間」というルネサンスの理想を実現することはできなかった。さらにF・ベーコンが目指した「感性から脱却した科学」が広く支持されるようになるにともない、近代における理性と感性の分離は決定的になった。そしてゲーテは、レオナルド的な視点に立つがゆえに、ニュートンやベーコン的な近代科学を批判せざるをえなかったのである。
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Research Products
(9 results)