2009 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19520217
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
永盛 克也 Kyoto University, 大学院・文学研究科, 准教授 (10324716)
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Keywords | フランス文学 / 悲劇 / ラシーヌ / セネカ / ストア主義 |
Research Abstract |
17世紀フランスの悲劇作家ラシーヌの文学的素養が16世紀的人文主義によって培われたものであることを前提とした上で、主にセネカを媒介として近代ヨーロッパに受け継がれたストア主義思想の影響がラシーヌの劇作品にも伺えること、その一方で、ラシーヌの創作態度が伝統を盲目的に踏襲するものではなく、意識的かっ選択的受容というべきものであることを、作家自身の受けた人文主義的教育(修辞学、文献注釈)や作家に間接的な影響を及ぼしたと思われる同時代の著作などに注意を払いながら、悲劇作品や序文の分析を通してテクストのレベルにおいて明らかにすることが本研究の目的である。計画の3年目である本年度は、悲劇の創作にあたってのラシーヌの姿勢を16~17世紀のフランスにおけるストア主義の受容という文脈の中に位置づけ、以下の点を明らかにした。1)ストア主義道徳の表現形式として多用される格言的文体はセネカ劇の特徴の一つであるが、この文体が17世紀においては批判の対象となり、ラシーヌもこの批判に同調して、セネカを劇作家として評価する姿勢は示していない。2)17世紀中葉から広がるストア主義道徳への反発がラシーヌ劇にも反映されている。『ブリタニキュス』においてラシーヌは修学時代に学んだ『寛容論』のテクストを巧妙かつアイロニカルな形で作品中に取り込むことで、同じく『寛容論』に想を得たコルネイユ作『シンナ』で称揚されるストア主義的理想を否定的に描いている。3)ストア的君主像は『ベレニス』や『フェードル』においても実現困難な理想として否定的に描かれているが、フェードルという登場人物においてセネカ劇の特徴-不幸に陥った人物が示す明晰かつ鋭敏な自意識-が極めて巧みに導入されている点に注目すべき影響が認められる。これらの成果は研究論文《Racine et Seneque. L'echec d'un ideal stoicien dans la tragedie racinienne》としてフランスの学術雑誌(XVII^e siecle, n^o 248, 2010)に発表される予定である。
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Research Products
(3 results)