2009 Fiscal Year Annual Research Report
ウェールズとイングランドの国家意識の変遷からみる社会史としてのアーサー王伝説研究
Project/Area Number |
19520257
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
不破 有理 Keio University, 経済学部, 教授 (60156982)
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Keywords | アーサー王伝説 / ウェールズ / 中世英文学 / Alliterative Morte Arthure / 『頭韻詩アーサーの死』 / 頭韻詩復興 / 国家表象 / 聖戦論 |
Research Abstract |
今年度は、2007年と2008年に国際学会で発表した論考をブリテンの国家表象の枠組みで捉え直すことによって、14世紀から15世紀におけるアーサー王伝説の受容の新解釈を提示することを目標とした。『頭韻詩アーサーの死』については目下、'A "Just War"? A Further Reassessment of the Alliterative Morte Arthure'と題した英文論考の最終校をまとめている。1378年の教会大分裂に伴う聖戦論の変容から本作品の主題、推定制作年代を論じた。本稿は欧米の研究者の論考集として刊行されるWar and Peace : New Perspectives in European History and Literature, 700-1800, ed .Nadia Margolis and Albrecht Classen (Berlin : Walter de Gruyter)に掲載されることになった。 また2008年の国際アーサー王学会(フランス、レンヌ)にて発表した『アーサーのワズリン湖奇譚』については本年3月のロンドンでの文献調査によって、さらにアイルランド・ブラックバーン写本とランベス写本との比較を行い、ソーントン写本の作品が、ロンドンを中心とする読者ではなく、ウェールズに隣接する北西イングランド地方のジェントリ階級の読者を対象としていること、またその地域の読みが写本として残存した可能性が高いことを指摘した。この研究によって、写本のコンテクストによって異なる作品の読み方を提示することができ、アーサー王伝説が王権の表象であるのみならず、地方の政情安定の表象装置としても作用していることがわかる。本研究は2010年5月の日本英文学会においての招待発表によってさらにまとめる予定である。また、トマス・マロリーの『アーサーの死』の19世紀のテキスト出版史についても3月の調査において行った資料を補完しつつ2010年度刊行をめざして準備予定である。
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