2008 Fiscal Year Annual Research Report
1940年代・50年代におけるフランス知識の「全体主義」思想への係わり
Project/Area Number |
19520278
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
川神 傅弘 Kansai University, 文学部, 教授 (00131417)
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Keywords | サルトル / カミュ / 超越 / ここ・今 / 否定性 / 彼岸 / 千年王国説 / 主人と奴隷の弁証法 |
Research Abstract |
昨年度は『サルトルと全体主義-預言者サルトル-』に於いて、サルトルが何ゆえソ連のcommunismeを擁護したのかについて、彼の小説、評論、哲学等のテクストを手がかりに、精神分析的かつ歴史哲学的な方向から一定の結論を得た。今年度は1940年代・50年代当時、世間がサルトルと琴瑟相和す関係と思っていたカミュとサルトルが激しい論争を展開せざるを得なかった理由と原因を追究した。両者ともに博愛的人道主義を標榜する実存主義者として一括りに見られていたコンビネイションがなぜ壊れたのかを探る試みは、意義ある作業となる見込みがあったからである。なぜなら、それは人間性と人道主義、また理想と現実に関する両者の決定的な考え方の相違を焙りだすことに繋がることが思量されたからである。均質的で普遍的な理想国家を建設するために未だない未来の理想に向かって常に「自己超越(transcendance)」することを旨とするサルトルに対して、カミュはあくまで「ここ・今」を優先する思想家である。未来の理想国家実現のために「現在の恐怖政治・暴力・強制収容所・虐殺等」の存在を認めるサルトルに対し、カミュは「何より大事なのは人命である」という立場を譲ることはなかった。ユートピア建設のためには少々の人的犠牲はやむを得ないとするサルトルと、彼岸志向とも言える理想国家は神話に過ぎないとするカミュの立場の相違は、現実否定派と現実肯定派のそれであり、カント以来の「人間を目的とするか、手段とするか」の選択を迫る問題でもあった。 以上のような問題について考察を重ねた結果、一定の結論と成果を得ることが出来たものと思われる。
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