2007 Fiscal Year Annual Research Report
現代中央アジア諸国における民族間共通語としてのロシア語の地位に関する比較研究
Project/Area Number |
19520324
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
柳田 賢二 Tohoku University, 東北アジア研究センター, 准教授 (90241562)
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Keywords | 社会言語学 / 中央アジア / ロシア語 / 多言語使用 / リンガフランカ / ウズベキスタン:キルギス:カザフスタン |
Research Abstract |
9月にウズベキスタンとキルギス、12月にカザフスタンにおいて現地調査を行った。本年度は3国において学生のロシア語能力を計測する大学の決定及び現地研究協力者の確保を最大の目的としたが、諸方面の協力を得てタシケント東洋学大学、キルギス民族大学、アルマトゥ民族教育大学の社会科学系学部学生(多民族国家の大都市にあるため、必然的に大小各民族を含む)をインフォーマントとして、そのロシア語能力の計測のためにロシア連邦教育省認定の外国人向け国家試験「ロシア語検定試験(ТРКИ)」を用いたロシア語能力測定の第1回を行うことができた。TPКИは旧ソ連圏以外の学生のロシア留学に必要な試験であって中央アジアでは行われていないが、ロシア語以外を一切使わない検定試験であり、異常に要求水準が高く上級の試験は極度に難しい。この試験の過去問はロシア政府が公開を厳禁していて一切入手不可能であることが判明したので、当初予定していた過去問に代えてTPКИの実施開始前にモスクワで出版された試行テストの問題を入手し、それを中央アジアの学生たちに受けさせた。調査開始前の時点では最上級の第4レベルまたはそれに次ぐ第3レベルのうち「文法」および「読解」の筆記試験を受けさせることを考えていたが、予備調査の一環としてロシア語常用話者であるウズベク人、キルギス人の大学日本語教員にこれらを見てもらったところ、「読解は難しくないが文法が異常に難しい」との感想があり、第2レベルですら文法については「これでも間違う。私はロシア語がよくできると思っていたのだが、自信を失くした」などというコメントをもらった。第2レベルの文法問題は日本のロシア語教育においては中級文法の範囲に属するものであって極端に難しくはない。これは、彼らですら択一式設問のうち誤りの肢を即座に誤りと判別できるほどロシア語形態論を完全に身につけてはいないことを示し、非ロシア人住民にとっての中央アジア・ロシア語とは、インテリであって民族語よりもロシア語をはるかに得意とする場合であっても母語ではなくリンガフランカであることを示唆する重要な証言であった。そこで学生に対しては第2レベルの文法の試験のみを施すことにした。
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