2010 Fiscal Year Annual Research Report
新疆モンゴル地域における自然認識の動態に関する文化人類学的研究
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19520703
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
シンジルト 熊本大学, 文学部, 准教授 (00361858)
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Keywords | 自然認識 / 文化人類学 / 比較 / 新彊モンゴル地域 / 民族自治権 / 民族集団間関係 / セテル / 儀礼 |
Research Abstract |
■今年度、牧畜民と動植物の関係を明確に表すと思われるセテルという慣習のあり方に着目し、セテル慣習を共有する異なる地域集団間の比較に調査研究の重点をおいた。セテルとは、何らかの理由で特定の家畜や植物の命を自由にすることを意味する言葉である。セテル儀礼をうけた家畜はいかなる状況でも屠られないというのがその基本原則である。だが実際、セテルをめぐる実践やそこで与えられている説明には、地域的な特徴が顕著にみられた。■調査対象は、(A)塔城地区ホボクサイル=モンゴル自治県、(B)イリ=カザフ自治州ジョウソ県、(C)カザフスタン共和国との国境地帯にある塔城市周辺の「モンゴルキルギス人」地域である。(A)地域では、セテルは自治県の無形文化財に登録されるなど地方行政府の保護を受けており、宗教信仰のみならず地域振興にも貢献しうる行為とされ、活発になっている。それに対してモンゴル族人口を多く抱えながら民族自治権をもたない(B)地域では、セテルをめぐる諸実践は信仰にまつわる私的な行為とみなされがちである。(A)(B)地域に劣らないくらい数のセテル家畜を有しながら、(C)地域の人々(戸籍上の民族名はキルギス族であり、カザフ語を母語とするチベット仏教徒)の間では、セテル家畜を食肉のために屠ることこそないものの、「オボー祭りの際に土地の守護神に捧げるべきものだ」と位置づけるなど、供犠獣としてセテルを説明する傾向がみられる。■地域間にみられるセテルの多様性を、そのおかれてきた歴史的社会的な環境の相違による結果だと認められよう。本研究にとって、こうした多様性を確認することの積極的な意義は、牧畜民の日常生活全般において重要な位置を占めるセテルという慣習自体の存在が依拠する共通のロジックの解明に、つながることにある。
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Research Products
(5 results)