Research Abstract |
研究の初年度にあたる今年度は,当初の研究計画に従い,現在,医療事故に対する刑事責任の追及がいかなる事例において行われているのかを,裁判例の分析と検討を通じて実証的に明らかにする作業を行った。具体的には,まず第1に,刑事事件として起訴され,裁判において過失責任が認められた事案と,同じく医療事故で,民事上の損害賠償が認められた事案,及び,行政処分がなされた事案とを比較し,そこでの過失の程度に差異があるのかを,判例集に公刊されたものを中心として検討を行った。そして,第2に,刑事事件それ自体において,過失責任を問う範囲に変化が見られるのかどうかという問題について,裁判例の検討を行った。 さらに,昨年4月に,厚生労働省に「診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会」が設置され,医療事故に対する法的責任追及のあり方及び刑事司法制度との関係について議論がなされている。検討会の議論では,専門的な調査委員会を設けて,医療事故の原因究明を行うとともに,病院管理者に対し委員会への届出義務を課すことにより,医師法21条に基づく警察の異状死の届出義務を解除し,他方で,重大な過失があった場合その他悪質な事案では,調査委員会が捜査機関に対して通知を行うとするなど,医療事故が発生した場合の既存の刑事司法システムを根本的に変える意見が出されている。この検討会には,法務省,警察庁の関係者も出席しており,そこでの議論が今後の制度設計の指針となると考えられたため,議事録をてがかりとして,その内容の詳細な検討を行った。
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