Research Abstract |
近年,医療事故についても刑事処分が科される傾向が強まっているが,その一方で,こうした刑罰拡大の傾向に対しては,医療界を中心に,強い疑問の声もあがっている。本研究は,医療安全の確保と推進のために,刑事司法制度がシステムとして医療事故にどのように対応すべきなのかという観点から,医療と刑事司法制度の関係につき,民事責任や行政処分との関係も視野に入れつつ,総合的な検討を行うことを目的とするものである。 研究の最終年度にあたる本年度は,前年度までの,実証研究と比較法研究を踏まえて,医療事故に対する刑事法の対応の在り方についてまとめの検討作業を行った。この点に関連して,厚生労働省に置かれた「診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会」が,「医療の安全の確保に向けた医療事故による死亡の原因究明・再発防止等の在り方に関する第3次試案」と,「医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案」を公表し,これをきっかけに,具体的な制度設計をにらんだ議論が進展していたため,それを素材として,具体的な制度設計について考察を行った。その一環として,2009年10月に,厚生労働省の研究班において,大綱案に示された捜査機関への通知制度に関する講演を行った。 また,医療事故に対する刑事処分のあり方を検討するにあたっては,あわせて行政処分のあり方を検討することが不可欠となるが,この点については,日本医師会に設置された「医療事故における責任問題検討委員会」に委員として参加し,検討を行った。同委員会は,2010年3月に答申を行ったが,そこでは,(1)刑事処分は故意又はそれに準ずる悪質な場合に限定し,医療事故に対する原因究明と再発防止策を検討するシステムを構築すること,(2)刑事処分の後追いではなく,医療事故の原因となった医師について,事故から学び復帰を援助する行政処分のシステムを新たに構築すること,(3)医療事故にかかわるシステムを医療専門家の集団が中心となる自律的システムとして構想するとともに,そのなかに国民の代表も取り込んだ,透明性のあるシステムとすること等が提言されている。
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